一塁に残った靖人が、ピッチャーをじっと見ながらリードをとる。

スノーボーダーがゲレンデで輝くように、野球部員が一番かっこよく見えるのは、きっと試合中のグラウンドの上なんだろう。

なんとなく、オーラがある。


靖人、がんばれ。

がんばれ。





「郁実ちゃーん!」

「あっ、おばさん! すごい、勝ったね、すごいね!」



試合終了後、まさかの勝利の興奮に包まれて応援席を出ると、球場の入り口で靖人のお母さんに会った。

野球部ママ仲間と応援に来ていたらしい。

帽子、タオル、カメラ、クーラーバッグ、日焼け防止の手袋と、さすが高校球児の母は装備にも抜かりない。



「今夜はお祝いするから、郁実ちゃんもおいで」

「行く行く! 帰ったら手伝いに行くよ」

「あらー、ありがと、待ってる」



ふくふくした身体で、ぎゅーと抱きしめてくれる。



「あー柔らかいしくさくないし、女の子欲しかったわあ」

「靖人もいい息子じゃん、十分じゃん」

「まあ、そうね」



後でね、と手を振って別れる。

私たちは学校に戻り、5限目の授業を受けなくてはならない。

靖人たちはさすがにそれは免除されているはずなので、会えるのはたぶん、お祝いの席になるだろう。

携帯なんて見る暇ないだろうけど、一応お祝いの言葉と、感動したよってことと、なっちゃんから仕入れた付け焼刃の知識をもとに、靖人の技術を讃えるメッセージを送った。



夕方、おばさんと手巻き寿司やらグラタンやらコロッケやら、靖人の好物を片っ端から用意しているうち、小麦粉が切れてしまったので買いに出た。

すると少し行ったところで、靖人を見つけた。



「靖人!」

「お」



汚れたユニフォーム姿のまま、携帯をいじりながら歩いていた靖人が、こちらに気づく。

駆け寄る私に、にこっと笑ってピースをしてきた。