悲鳴みたいな声になった。

一瞬、あたりがしんと静まり返った気がしたんだけど、それは気のせいで、周囲はにぎやかな食事風景のままだ。

健吾くんが、私をどうしようか迷っているみたいに眉根を寄せた。



「…できるわけないだろ、そんなこと」

「わかってるよ、だから言わなかったの」

「なあ、そんなに気にする必要ないだろ、過去のことだって」

「美菜さんは現在の人だよ」

「屁理屈言うな」

「だからもういいってば。健吾くんがはずみとかなんとなくで女の子とホテルに入ったりする人なのは、私も知ってたんだし」



自分でもなんでそんなことを言ったのかわからない。

さすがに健吾くんもかちんと来たらしく、あからさまに不機嫌な顔になった。



「これからも俺の昔話が出るたびに、そういう態度とるつもりか」

「わかんないよ、そんなの」

「気に入らないのはわかるけど、仕方ないだろ。やったことは消えないし、会社辞めるわけにもいかないし」

「気に入らないのがわかるんなら、ほっといて」

「あのなあ」



苛立たしげな声。



「この歳になりゃ、そういう話のひとつやふたつ、誰だって持ってるよ。それが嫌なら、最初からまっさらな奴を探せ!」



自分の目が、見開かれていくのがわかった。

健吾くんは、はっとした様子を見せたけれど、謝りはせず、私から目をそらす。


だよね、悪いのは私だもん。

でも健吾くん。

それは…少なくとも私にとっては、禁句。


震える手で、残ったパスタをなんとか処理しようとする私に、健吾くんが小さく息をついた。



「帰るか」



そうして私の返事も待たずに、伝票を持って席を立ってしまう。

こんな扱いをされたのは初めてで、悲しくて怖くて、泣きそうになった。


健吾くん、ごめん。

ごめんなさい。


でも、全部ほんとの気持ちだったんだよ…。