顔を上げた健吾くんが、困り果てたような表情になった。

きっと私は、ひどい顔をしているんだろう。



「郁…」



取り繕うこともできず、私は強張った手で食事を続けようとした。

でも無理だった。

不満と不安と、あとよくわからないドロドロしたものが、喉の奥から逆流してきて、とてもじゃないけど食べられない。

フォークを置いた手を、健吾くんが握る。



「一回だけだったって言ったら、安心する?」

「しない」

「どうしたんだよ、俺の昔の話とか、前は聞きたがったくせに」

「それとは全然違うよ!」



なんで急に、そんな鈍くなっちゃうの、健吾くん。

いつも私の言ってほしいこと、先回りして当てちゃうくせに。



「なにが違うんだよ」

「だって美菜さんとは…いつも、すごく近くにいるんでしょ、私にはわかんないけど」

「逆だろ、一緒に仕事してても、それ以降なにもなかったんだから、お互い特別な気持ちは全然ないってことだろ」

「だったらなんで一回したの」

「それは、はずみっていうか、なんとなく…」



私がにらみつけると、健吾くんが戸惑いを見せる。



「でもお互い、なんか違ったなって認識あったし、もう絶対ねえよ、それは確信持って言える」

「でも、犬あげたりとか、やっぱり特別だよね」

「それは、あいつがちょうど探してたからだって、説明したよな? 別に俺があいつだけに声をかけたわけじゃない」

「これからも会いに行くんでしょ?」

「それは…おい、なにが言いたいんだよ」



手をぐっと握られる。

わかんないよ、なにが言いたいかなんて。

美菜さんと仲よくしないで。

なんて言ったって、どうせ無理でしょ?

だったらもう、言いたいことなんてないよ。



「郁」

「もういいよ、めんどくさい話してごめん」

「勝手に終わらすな。言いたいことあるなら言えって、昨日も…」

「じゃあ美菜さんともう会わないで!」