「あー…来週また忙しい」

「トラブル?」

「いや、お客さんが増えそうっていう、ありがたい話」



ようやく終わったのは半分ほども食べ進めた頃で、健吾くんはくたびれたのか、肩をもむ仕草をする。



「…美菜さんと健吾くんは、一緒にお仕事するの?」

「そういうときもあるし、別々のときもある」



言いながらパスタを頬張ると、私が待っているのに気づき、補足の説明をくれた。



「うちの営業って、取引先ごとに担当がつくのとクロスして、商品ごとにも担当がいるわけ。俺は取引先で分けられるほうで、あっちは商品担当なの。開発の関連会社から来てるから」

「じゃあ、システムとか詳しいんだ」

「もちろん。そのために来てるんだからな。専門的な話を求められたり、細かい話まで入れたプレゼンをしたいときなんかは、俺はあいつを連れて取引先に行くわけ」

「パートナーだね」

「別に俺とだけじゃなくて、必要があれば誰とでも組むよ。俺だって青井以外の商品担当と動くこともあるし」

「でも、仲のいい同僚なんだよね?」



私の食い下がりに、ようやくなにか妙だと気づいたのか、健吾くんが不思議そうに「…まあな?」とうなずく。

私はこんな幸せで楽しい買い物の最中に、そんな話をしたかったわけじゃないんだけれど。

でも胸のもやもやが、正直に顔に出てしまったらしい。

黙った私を、健吾くんがじっと見た。



「…なにか聞いたな?」

「うん…」



軽い舌打ちが聞こえたので、びくっとした。

でもそれは私に向けられたものではなかった。



「よりによって郁に話すなよ…」



健吾くんは顔を伏せ、前髪をかき上げるように指を埋めて、悪態とも弱音ともつかないような声を出す。

私は、やっぱり本当だったんだと今さら実感して、つい今しがたその当人たちが会話していたという事実が、急に生々しく、受け入れがたいことに感じられた。



「…変な話するなって、言ってたのにね」

「それはそういう意味じゃない。単に俺の悪口とかそういう、あることないこと吹き込むなって意味で」