ゆっくりと健吾くんの顔が近づいてきて、唇が重なった。

手が私の腕をなでて、それから脇をなぞってウエストのあたりにたどり着く。

そこで終わるかなと思ったら、Tシャツの裾から潜り込んできて、素肌の腰をなでられたので、思わず息がもれた。


口を開けた瞬間、舌が入ってきた。

深く噛み合わせて、私の舌を絡めとって、熱くさせておいて、何食わぬ顔ですぐに浅い、軽いキスに戻る。

こっちは次いつ来るかって期待で、しがみつく手にも力が入る。


でももう二度と、キスは深くならなかった。

私の心の動きなんて手に取るようにわかっているんだろう、健吾くんが優しい顔で見下ろす。

じっと目を見てくれるの、嬉しいけど恥ずかしくて、でも好き。



「早く大人になれ」

「子供でも不満ないって言ってたじゃん」

「ないけど、郁がいい女になるのも待ち遠しいよ」

「私だって待ち遠しいもん」



卒業までの行程を数えてみる。

誕生日が来て、夏休みが終わって、後期に入ったら全統模試があって、センターがあって二次があって、卒業式。

遠い。

ため息をつくと、察したのか慰めるように頭をなでてくれた。



「誰だって一足飛びには無理だ、焦るなよ」

「焦ってないよ、楽しみなだけ」



ぎゅっと首に抱きつく。

健吾くんは笑って、背中をぽんぽんと叩いてくれた。



「こんな甘えっ子じゃ、当分子供か?」

「いいんだもん、私は時が来るのを待ってるだけだし」

「ん?」



不思議そうに首をかしげる。

その優しい仕草に、まだまだ甘えたい欲がむくむく湧いてくる。



「だって、健吾くんが大人にしてくれるんでしょ」



すると健吾くんは、目をまん丸にして。

なんだかあちこちに視線を泳がせてから、照れくさそうに顔をしかめて笑って。



「すげえ殺し文句」



そう言って私の頭を抱きしめた。