「ありがとう」

「ブランド志向じゃなかったろ、どうした?」

「金のかかる女になろうと思って」



健吾くんは顔をそむけて隠しているようだったけれど、全然笑いをこらえきれていなかった。

なんだよ、私なりの一大決心を。



「別に笑っていいよ」

「いや、もう大丈夫。明日一緒に見に行くか」

「えっ…、一日あいてる?」

「あいてるよ」

「ずっと一緒にいられる?」



返事の代わりに、背中に腕を回して、おでこにキスをくれる。

わあ!



「じゃ、じゃあ私、帰る」

「え、おい、なんで?」

「明日着る服、選ぶから…」



跳ね起きてベッドを下りようとしていた私の、手首を掴んで引き止めていた健吾くんがぽかんとした。

いっこうに離してくれる気配がないので、ちょっと手を揺すってみたら、突然その手を引かれて、私は向こうの胸の上に倒れ込んだ。



「わっ、なに?」



頭を両手でぐしゃぐしゃにかき回される。

うわ、やめてよ!


ぼさぼさになったであろう髪に指が入ってきて、顔を引き寄せた。

仰向けになった健吾くんが、笑いながら私を見上げている。



「朝送ってってやるから、今日は泊まってけ」

「でもー…」

「なに着るかくらい、頭の中で考えときゃいいだろ」

「わかってないなあ」



そうやって想像したのと実際着てみたのとじゃ全然違うから、女の子の準備は時間がかかるんじゃないか。

健吾くんが、ごろんと体勢を変えて、自分の下に私を敷くみたいにした。

両手で私の顔を挟んで、指先でなにかを確かめるように、目元とか口元のあたりをなでている。

なんでそんな嬉しそうな顔してるの?



「帰るなよ」



そんな静かな声で、そんなこと言われたら、くじける。