もろ食べてる最中だよ、さっきは自分が嫌がったくせに。

テレビが見えないよ。


左手が私の頭を抱き寄せて、キスがほんの少し強くなる。

バニラの香りの、文字通り甘いキス。


柔らかく唇を食んで、浅く舌が隙間から入ってくる。

ちょんと私の舌先をつついて、それで終わり。

最後に軽い音を立てて唇を吸うと、健吾くんは私を解放して、にやっと笑った。


そういう顔、ずるいよ。

私が真っ赤になってシュークリームを食べる間、健吾くんはずっと、なにも言わないくせに横目でこっちを見て、にやにやしていた。



「あっ、やば、もう帰らないと」

「送ってってやるよ」

「ほんと?」



最後のひとかけをひょいと口に放り込むと、コーヒーでそれを流し込んで、健吾くんが立ち上がる。

テーブルに投げ出してあったお財布と車のキーをポケットに入れ、ハンガーラックにかけておいた私の制服を取って「ん」とこちらに差し出した。

楽しい時間の終わり。





「今頃ご帰宅かよ」

「待ち伏せてたの?」

「んなわけあるか」



少し手前で降ろしてもらい、残りを歩いていると、家の前で靖人に出くわした。

全身スポーツウェアで肩のストレッチをしているのを見るに、走りに行くところなんだろう。

来月から夏の甲子園の地区予選が始まる。

負けたらそこで引退だ。



「がんばってね」

「それが、この間抽選会だったんだけどさあ」

「知ってる、初戦で商業と当たるんでしょ」



甲子園常連の強豪だ。

対してうちは、毎年3回戦止まりの普通の成績。