「怒ってもらえないと不安?」



全部お見通しだよって感じの、余裕たっぷりの微笑み。

安心してもいいはずなのに、私の心は、情けなさで委縮した。



「…わかんない」

「あんなんで俺、怒んないけど。そのたび不安になる気?」

「あんなんで、ってなに?」



突き放すような言葉に、私はつい噛みついた。

健吾くんが驚いた顔をする。



「健吾くんには当たり前だからってこと?」

「なにがだよ?」

「私、靖人だから平気だったけど、ほかにあんな近い男の子いないし、あんなことになったらものすごく動揺するよ、それでも健吾くんにとっては"あんなんで"なの?」



半端にドライヤーをやめてしまったため、まだ湿っている髪に、健吾くんが片手を差し込んだ。

視線は私に置かれたままで、たぶん言葉を選んでいる。



「…俺が言ったのは、どう見ても事故だったしっていう意味で、それ以外の含みなんてないぜ」



あ…。

そういうこと、か。

私がまた爆発しないか探っているような目から、顔をそむけた。


なんでか涙が数粒、ぽろっとこぼれる。

慌てて手の甲で拭いて、でもそれは全然数粒では終わらず、後から後から私の手を濡らした。



「郁…」



弱ったような声がする。

手が、こちらに伸ばされるのがわかった。

頭をなでようとしたのだろうそれは、私に触れる前に、また引っ込められた。



「泣いててもわかんない。言いたいことがあるなら言いな」



今日は厳しくいくと決めたらしい。

裸のまま腕を組んで、健吾くんは子供を叱るような顔で、じっと私を見ている。

また涙の量が増えた。



「郁」

「…美菜さんに、最初に会ったとき」

「青井に? あの川のとこでの話?」