なんて表現!

目を丸くした私に、自分でもひどいと思ったのか、健吾くんが耳を赤くするのが、鏡の中にはっきり映った。

私が笑うと、一瞬むっとした顔をして、片腕を私の首にかけて、ヘッドロックのまねをする。



「わっ、ギブ、ギブ」

「甘い」



洗面台をタップしても無視され、髪がぐちゃぐちゃになったところをぐいと引き寄せられたと思ったら、唇が口に押しつけられた。

バスルームの香りのする、あったかい唇。


…く、るしい。

無理な体勢で口を塞がれて、私は再び向こうの腕をタップし、降参の意を伝える。

それでもなおしばらくこちらの息を封じてから、ようやく健吾くんは私を解放した。


ぷはっとお互い限界に来ていた息をする。

よろけてぶつかった扉に寄りかかって、震える手で髪を直していると、健吾くんが一歩近づいてきて、私の顔の横に手をつく。

満足げに笑んだ顔をかしげるようにして、今度はゆっくりと、柔らかく触れるキスをくれた。

こんなことくらいで、私は幸せではちきれそうになって、さっきまでの不安を忘れてしまう。

これだから子供は。



「…あの」

「うん?」

「ごめんなさい、この間、靖人の家で」



すぐになんの話かわかったんだろう、健吾くんが間近で、ひとつ瞬きをした。



「謝るようなことしてたの?」

「してない」

「じゃあ謝らなくていい」

「怒らないの?」

「なんで俺が怒るの?」



優しく問いただすような声。

洗面台の上のライトが、健吾くんの顔を影にしていて、扉に置かれた手とその腕が頬に触れるくらい近くて、私は拘束されているような気持ちになった。


なんで…。

なんでだろう。


答えが見つからず困っていると、ふいに視界が明るくなった。

身体を起こした健吾くんが、真正面から私を見つめる。