「健吾くんは、『ダイエット中だから』ってわざわざ口に出されるのが嫌いなんだって」

「まったくもって同感だけど、健吾くんいねーし、そもそもダイエットなんかしてねーだろ、お前」

「おいしい!」



まだ焼きたてだ。

冷やして二度おいしいのだ、明日が楽しみ。



「治樹くんに、健吾くんのこと突っ込まれなかったか?」

「今まさに突っ込まれてきた。でもぼやっと説明したら、なんとなくごまかせた…気がする」



ごまかすって言葉、嫌だなあ…。

そんな心情を察してか、靖人も複雑に表情を曇らせた。



「母さんに口止めしときゃよかったな」

「靖人って、健吾くんのこと気に入らないのかと思ってたよ。実は応援してくれてるの?」

「応援、は…」



ケーキのお皿をあぐらの脚に載せて、フォークでつつきながら靖人が、考え込むような声を出す。



「してない」

「あ、そう」

「俺もう、これ食い飽きた…」

「嫌々食べるくらいなら残しといて!」

「でもこれがお前の脂肪になると思うと、幼なじみの義務として」

「おいしいって思いながら食べれば栄養になるんです。あーこれダメやばいって罪悪感にまみれながら食べると脂肪になるの」

「そんなことはない」



薄情な発言を無視してお皿を引き取り、もりもりと食べる私を、失礼にも靖人は、薄気味悪そうに見ていた。





週明け、通りを歩いていると、控えめなクラクションが聞こえた。



「郁実ちゃーん」

「あ」



ちょっと行ったところに赤い車が停まっていて、運転席側に女の人が立ち、こちらに手を振っている。

青井さんだった。