「妬ける?」

「社会人は、そんなのでいちいち妬いてる暇ない」

「暇もないのに妬いてくれてるんだ」



横からぎゅっと抱きつくと、「邪魔」と払いのけられる。

負けずにしがみついて口元にキスをした。



「食ってる最中はやめろ」

「健吾くんが食べてるときの口の感じ好き」

「変態くさいこと言うな」

「最近帰り早いね、お仕事ひと段落?」

「月末に向けて体力温存てとこ」



小気味よく全部のお皿を空にした健吾くんが、テレビをつけた。

食器を下げながら聞いてみる。



「営業って、どんなお仕事?」

「相手がいて、ノルマがあって、うまくやると会社も俺も儲かる」



ざっくりだなあ。

特に見たい番組があったわけではないらしく、しばらくポチポチとチャンネルを変えて、ニュースに落ち着いた。



「面白い?」

「俺は好きだし、向いてると思う。きついって言う奴も多いけど」



健吾くんの勤め先は、システム開発の会社だ。



「"飛び込み"とか、するんでしょ?」

「そりゃするけど、あれだってちゃんと頭使えば成果出せるんだぜ。文字通りただ飛び込んでるだけの奴だよな、苦行とか言って文句ばっかつけてんの」

「頭使うって?」

「事前に会社規模とか従業員数とか社風とか調べてさ、そうすると使うソフトのレベルがだいたいわかるだろ、で、主要取引先とかも開示してあれば見てみて、そこにメーカー系のシステム会社が並んでたりしたら、時間の無駄だからとりあえず次行く」



メーカー系に負けてられっか、というのが、あまり仕事の話をしない健吾くんの、唯一の口癖だ。

経営難には親会社である大手電機メーカーに助けてもらい、天下り先としていいように使われ、あげくそのメーカーのハードウェアでしか使えない商品をごり押しするだけの能無し。

彼から聞く限りでは、メーカー系というのはそんな感じ。