「はい、ウェットティッシュも使ってね」

「ほんと最高」



日差しは強いけど、風があって過ごしやすい。

バゲット2本使って、具もたっぷり挟んで、そこそこボリュームあると思っていたんだけど、気づいたら健吾くんが全部食べてしまっていた。



「うまかった」



満足そうに息をつくと、ジーンズのポケットから煙草を取り出す。

火をつける前に、ごみを片づけていた私の袖を引っ張って、自分の反対隣を指さした。

あ、風上。


バッグを抱えてそちらに移動する。

煙草を手で囲って火をつける姿が、いつ見てもかっこいい。

これであんなチャラ…いや、浮ついた格好してたら、もうモテてモテて困っただろうな。


私は当時…小学生か、もしかして。

改めて、7つの差って大きいなと考えていると、声がした。



「いく!」



私と健吾くんは、同時に同方向に顔を向けた。

女の人がひとり、バーベキューの群れから離れて、こちらに手を振っている。


…私じゃない。

てことは。

健吾くんは目を見開いて、くわえていた煙草を指に挟んだ。



「あおい」



あれ…。

これ、どういう事態?


女の人に手招きされて、健吾くんが一度私を振り返ってから、腰を上げた。

でもそれより先に、向こうがこちらにやってきた。



「やっぱりいくかあ、見覚えある奴いるなと思ったのよね」



飾り気のない白いTシャツとジーンズだけど、抜群のスタイルが、むしろそんな恰好を贅沢に見せている、きれいな人。

少し明るくした髪は顎の下までのボブで、さらさら揺れている。

健吾くんがまぶしそうに目をすがめて、そんな彼女を迎えた。