「審判へのアピールが必要だったりとか、相手との駆け引きで勝敗が決まるとか、そういうのも嫌で」

「なるほど」

「でも、体操は採点競技だろ、人の主観入るじゃん」

「自分の力で、自分の記録と戦う、みたいのがよかったんだ」

「そう言うとかっこよすぎるけど」



健吾くんの走るとこ、見たいなあ。

私がこれまで、健吾くんに部活や学校生活のことをあまり訊かなかったのには理由がある。

そういう話をすると、すごく自分に近いところでしか会話できないような、世界の狭さをさらしてしまいそうで嫌だったのだ。


ほんとはしたかった。

もうできる。

健吾くんが、私は高校生でいいんだって言ってくれたからね。



「大学のときの写真、ないの?」

「えー? あったかなあ…」



くしゃくしゃと髪をかきながら、携帯の中を探してくれる。

別にどんな話題だって、健吾くんが私をバカにしたりすることなんて、なかっただろうに。

私は結局、ひとりで意固地になっていただけだ。

ねえ、と心の中で犬に話しかけた。

犬、犬というのも殺風景なので、仮の名前くらいはあげたいけれど、健吾くんが嫌がるに違いない。



「あっ…」

「あった?」

「いや」



のぞき込んだ私から、あからさまに一度、画面を背けた。

どう考えてもわざと、さっと違う写真に切り替わった画面を前にして、お互い黙る。



「…なんで隠すの?」

「隠してない」

「あのね、嘘つくならもっと本気でついてよ」



これ以上渋るのも大人げないと思ったのか、写真をスライドさせて戻す私を、健吾くんは止めなかった。

出てきた写真を見ても、あれ健吾くんいないじゃん、となりかけて、いやいや、と気がつく。


飲み会かなあ?

3人の男の子が大笑いしながら写っている、真ん中が健吾くんだ。

一瞬、全然わからなかった。

髪の色が明るいし、今では絶対つけないようなバングルとか手首にはめてるし、そもそも全体になんていうか…。