「どうするかな…」

「ごめんね、巻き込んじゃって…」



車に戻ると、ハンドルに手を置いて、健吾くんが深い息をついた。

つい謝った私のほうを、ぱっと見る。



「郁は謝らなくていいよ」

「でも、どうしよう、あの子」

「会社で、飼える奴探してみるよ」

「明日の迎えは?」

「俺、午前中の会議が終わったら外出だから、そこで抜け出す」



10台ほどが停まれる駐車場には、私たちの車しかいない。

病院の外壁についている、淡いライトが車内を照らす。

すぐに車を出す気にならないらしく、健吾くんはエンジンだけかけて、なんだかぼんやりしている。

私も動揺続きで、頭が妙に冴えているような空回りしているような、おかしな感じだ。

健吾くんに借りたTシャツが、慣れない着心地で落ち着かない。



「今気づいたんだけどさあ」

「うん?」



どこを見ているふうでもなく、前方に視線をやって、健吾くんがつぶやいた。



「俺、玄関でぶつかったとき、郁の携帯持ってたはずなんだ」

「あっ、そうだ、私、置いてっちゃって…」

「でも今、持ってないんだ」



沈黙が下りた。

あの後、犬を抱えて部屋に上がって、バスタオルとか出して、病院を調べて、シャツを借りて、まだ飲んでなくてよかったと言いながら車まで走って、もういろいろとてんやわんやで記憶がごちゃごちゃしている。

健吾くんがシフトレバーに手を置いた。



「とりあえず、早く帰ろう、頭整理したい」

「あの」



その手に、自分の手を乗せる。



「…ごめんなさい」

「謝らなくていいって」

「犬じゃなくて、その前…」