「いって…」

「ごめん、ねえ健吾くん、助けて、どうしよう」

「なにがだよ、…って、郁!」



最後は悲鳴に近かった。

私を見て目を剥くと、裸の肩をものすごい勢いで掴んでくる。



「なにがあった、なんかされたのか」

「ねえどうしよう、これ、この子」



私は泣きながら、腕に抱きかかえていたものを見せた。

くるんだTシャツに、じわじわと血が染みていくのが腕の感触でわかる。

どうしよう、どうしよう。

ようやく事態が掴めたらしい健吾くんが、Tシャツの中を見て目を丸くする。

さっきまで暴れていたその子は、もうぐったりと目を閉じていた。



「…犬か、これ?」





「ここですね、関節に近い位置だったのでしっかり固定する必要があって、ピンを入れました」

「歩けるようになるんですか?」

「なりますよ、見たところ2歳くらいですから、2か月ほどで元通りになると思います」

「そうですか…」



必死でネットで調べてたどり着いた夜間救急のある動物病院で、親切な若い先生の話を聞きながら、健吾くんと安堵の息をついた。



「出血があったのと、もとからの衰弱で体力が落ちてしまっていますが、これもすぐ元に戻るでしょう。ただ事故や手術のショックで食べられなくなる子もいるので、気をつけてあげてください」



私と健吾くんが黙ってしまったのを見て、先生が、あっという顔をする。



「そうか、飼い主さんじゃないんですよね」

「あの、こういう場合って、どうすればいいんでしょう。一時的に預かるくらいはしてやりたいですが、ほとんど家にいないので」

「まずはこの子を探している飼い主がいないか確認ですね。しつけないと吠える犬種ですし、衰弱の具合から見ても、捨てられちゃった可能性が高いかな…」



先生はそう言うと、保健所に連絡、警察に連絡、とやるべきことを書き出してくれる。



「今日はこちらでお預かりします。明日の朝の様子を見て、お昼くらいにはお引き取りのご連絡をします。それまでにこの子をどうするか、決めてきてください」



優しく笑い、『小型犬との暮らし方』という冊子をくれた。

別れ際に見たさっきの犬は、透明なプラスチックのケースの中で、首にメガホンみたいなものをつけて眠っていた。