「で、いた?」

「うーん、下手っていうか、たぶんそういう子はそもそも作らないから、上手か下手かもわからないよな」

「部屋に行けば、気配でわかるじゃん、調理器具とか調味料とか」

「俺もあんまりやらないから、見たってわかんねーよ」

「そんなものかあ」



こうは言うけど健吾くんも、パスタくらいなら自分で作る。

隣に座って、サラミを失敬した。



「今までつきあったのって、何人?」

「んー…、4人くらい?」

「くらいってなに?」

「えーと…」



歯切れの悪さは、恥ずかしいとか言いたくないというよりは、私にどこまで話して平気か判断つきかねているように見えた。



「えーと?」

「もうやめ、終わり」

「なにそれ」



いきなり話を切り上げてられてしまい、思わず噛みついた。



「ずるい」

「なにがずるいんだよ、そっちはなにも出さないで」

「なんでも訊いてくれていいよ、全部答えるよ」



当然ながら、なんの経験もありません、しか言えないけど。

ビールを開けかけていた手を止め、健吾くんがむっとする。



「俺はそういうの、聞きたくないし」

「じゃあ私、別にずるくないじゃん、勝手にやめないで教えてよ」

「嫌だ」

「なんでよ!」

「郁がどういう受け止め方するか、わかんないから!」



最後の言葉は、私を見ずに吐かれた。

横顔を向けた健吾くんが、目線を落として、口をつぐむ。

その肩を掴んでいた手が、震えそうになった。



「…それ、私がガキだから?」



彼が、はっとこちらに顔を向ける。

手を取られそうになって、すんでのところで引っ込めた。