返信を打ちながら時計を確かめる。

健吾くんのマンションまでは、バスで20分ほどだ。

次のバスまで、もう間もない。

その次を待っていたら、15分ほどロスすることになる。


はっ、作りかけのあれ、どうしよう…。

火を止めてしまったら傷みはじめるし、冷蔵庫に入れられる温度にはなっていない。

冷ます時間もない。

えーっと、えーっと。





「で、鍋ごと来たわけね」

「少し置いてくから…明日食べて」



隣のおばさんか、と我ながら恥ずかしく思いながら、キッチンを借りて再度お鍋を火にかけた。

熱々の両手鍋を平らなまま入れられるバッグなんて見つからなくて、風呂敷で包んで持ってきたのだ。

バスの中でも、塾帰りの小学生に指をさされた、気がする。



「葉っぱ入ってる」

「ローリエだよ」



中身をかき混ぜる私を、後ろからゆるく抱いて、健吾くんがお鍋をのぞき込む。

着替えもままならなくて、部屋着にしているくたくたのTシャツにジーパンを履いただけだ。

うう、ひどい恰好で来てごめんなさい。



「郁は料理上手だな」

「下手な人もいた?」

「え?」



振り返ると、健吾くんは戸惑ったような顔をしていた。

あれっ、こういうのって、訊いたら失礼なのかな。



「えーと…訊かないほうがいい?」

「そんなことないけど。珍しいな、郁がそういうこと訊くの」

「訊く機会がなかっただけだよ」



ずっと気になってはいたよ。

当然じゃん。


健吾くんが私から離れ、冷蔵庫から缶ビールとサラミを取って部屋に戻った。

いい具合にくつくつ煮えているのを確かめ、私も戻る。