『マジか、俺と一緒だ』

『えっ、そうなの』

『今1年? さすがにかぶってはないよな』



やばいやばい、と思いながらとりあえずうなずく。

健吾くんは楽しげに笑った。



『受験戦争くぐり抜けたんだな、お疲れ』



その一言が、私を現実に引き戻した。

そもそもなんでそのとき私がやさぐれていたかというと、進路進路と学校でつつかれるようになって、憂鬱になっていたからなのだ。


勉強ができないわけじゃなかった。

でも特に人生の目的みたいなものもなかった。

けれど兄が、将来のために私を進学させたいと考えているのもわかっていたし、自分も許されるならそうしたいと思っていた。


許されているの、ほんとに?

なにかほかにすべきことがあるんじゃないの、たとえばお金を稼いでお兄ちゃんを助けるとか。


そんな自問自答に悩まされて、眠れなくなって、ネットばかりして、まあ今思えば単なる受験鬱による現実逃避だ。

そういうのがどっと押し寄せてきて、思わず顔を腕で覆った。



『帰りたくないなー…』

『おいおい』

『このまま寝ちゃいたい』

『延長する?』

『そんなこともできるんだ』



ベッドの上で、健吾くんが動く気配がした。

やがてすぐ近くから声が聞こえた。



『試す?』



目を開けると、仰向けになった私を、横からのぞき込んでいる。

後から考えれば、このとき健吾くんは、指にさっきのけばけばしい色をしたプラスチックの包装を挟んで見せていたんだけど、私は顔に見とれていて、まったく気づかず。

延長の話だと思って、『いいの?』と訊いたのだった。

健吾くんはにっと笑って、『俺、今フリーだし』と言った。


変な回答だな、と考えているうちに、見とれていた顔がどんどん近づいてきて、あれっと思う間もなくキスをされた。

私はもちろん初めてだったので、衝撃だった。

超のつく初心者なのに、のっけから、色気しかないようなやつをされたんだから、そりゃそうだ。