「珍しい」

「なにが」

「健吾くんが発情してる」

「発…」



あんまりな言われように、がくりと来る。

2月に初めて肌を重ねて以来、もう二桁回に上るくらいはそういう行為を楽しんできたけれど、郁実はいまだに快感や快楽よりも、好奇心と目新しい体験へのわくわくのようなもののほうが勝っているらしく、どこまでも無邪気だ。

特に健吾の身体が示す、男の生理的な変化が楽しくて仕方ないらしく、火照ればさわりたがり、動悸が高まればくっついてそれを聞きたがる。

勘弁してくれと思いつつも、かわいくて愛しくて、退けることもなかなかできない。



「してるから、郁で解放させて」



隅々まで見事にびしょ濡れの身体を抱きしめてねだってみると、郁実も抱きつき返してきた。



「健吾くんの部屋行ってもいい?」

「一時間以上かかるぜ、それまで気持ち悪くないなら、いいけど」

「我慢する」



するりと腕から抜け出して、点々と海面に顔を出す岩の間を、身軽に飛び移りながら進んでいく。

子猿、と今しがた女扱いしておきながら手の平を返すようなことを考え、その後を追った。



「なんでかって言うとね」



少し先を行く郁実が健吾を振り返り、不思議にじっと見つめる。



「なんだ?」



問いには答えず、ささっと斜面を上がりきってしまうと、駐車場のガードレールからこちらに身を乗り出して、海に向かって叫んだ。



「ホテルだと、声出せって言って健吾くんがひどくするからー」



赤面、絶句。

呆然と立ち尽くし、はっとして周りに人がいないのを確かめる健吾を、頭上の郁実がけたけたと笑い、歌うように言う。



「発情期の健吾くん、真っ赤」



その二つは、今は関係ない! と反論しようとしたが、論点はそこでもない上に、こっちまで大声を出すはめになると気づき、ぐっとこらえた。

急いで岩場をのぼり、いたずらが成功して気をよくしている郁実の首根っこを掴むような形で車まで引きずっていった。