あ。
しまった、と思いつつ「実は、そうなんです」と答える。
高校の頃はさておき、大学生になった今はもう、自分の相手の年齢を無理に隠そうとは思わないけれど、一般的に考えて、驚かれるだろうという自覚はある。
けれど社長の娘は、それ以上深入りせずにいてくれた。
「いいなあ、学生の頃、こんな素敵な彼がいたら、楽しいですね」
「その、そう思ってもらえてたら、嬉しいですけど」
「僕がもらうよって、ご本人にはもう言ってあるんですか?」
「そろそろ契約のお話を…」
社長の娘はくすくす笑って、顔を上げられないほど恥ずかしくなった健吾が、なんとか仕事の話に戻そうとするのを許してくれた。
■
「ごめんね、遅れちゃった」
「大丈夫だよ」
郁実が家から走り出てくる。
運転席から手を伸ばし、助手席側のドアを開けてやりながら、郁実の兄の治樹が玄関から出てくるのを見つけた。
車から降りて、「こんにちは」と声をかける。
携帯をいじっていた治樹が、健吾に気づいて笑顔になった。
「あっ、どうも、この間はありがとうございました」
「いえ、こっちもすごく喜んでもらえたんで」
治樹が言っているのは、健吾が会社の上司の送別会に、治樹の勤めるレストランを借り切った件だ。
規模がちょうどよかったので、せっかくならと思い問い合わせてみたところ、快くメニューの相談などに応じてくれた。
味もサービスもよく、上司も参加した面々も、なにより幹事である健吾も十二分に満足のいく会となった。
その後、店のリピーターとなった同僚もいる。
治樹の点数稼ぎと言われてしまえばそれまでだが、そんなつもりはないし、同じ金と時間を使うなら応援したい相手に注ぐ、というのはもとからの主義でもある。
「これ、来月からのメニューです。よかったら拡散してください」
「喜んでしますよ、周りにもファンがいるんで」
治樹がバッグから紙を取り出して、一枚くれる。
後で写真を撮って、みんなに回そうと決めた。
「じゃあ、郁実をよろしくお願いします」
「お預かりします」
ガレージのある裏手に回る治樹に頭を下げた。
車内に戻ると、助手席の郁実が、なにやらむくれていた。
しまった、と思いつつ「実は、そうなんです」と答える。
高校の頃はさておき、大学生になった今はもう、自分の相手の年齢を無理に隠そうとは思わないけれど、一般的に考えて、驚かれるだろうという自覚はある。
けれど社長の娘は、それ以上深入りせずにいてくれた。
「いいなあ、学生の頃、こんな素敵な彼がいたら、楽しいですね」
「その、そう思ってもらえてたら、嬉しいですけど」
「僕がもらうよって、ご本人にはもう言ってあるんですか?」
「そろそろ契約のお話を…」
社長の娘はくすくす笑って、顔を上げられないほど恥ずかしくなった健吾が、なんとか仕事の話に戻そうとするのを許してくれた。
■
「ごめんね、遅れちゃった」
「大丈夫だよ」
郁実が家から走り出てくる。
運転席から手を伸ばし、助手席側のドアを開けてやりながら、郁実の兄の治樹が玄関から出てくるのを見つけた。
車から降りて、「こんにちは」と声をかける。
携帯をいじっていた治樹が、健吾に気づいて笑顔になった。
「あっ、どうも、この間はありがとうございました」
「いえ、こっちもすごく喜んでもらえたんで」
治樹が言っているのは、健吾が会社の上司の送別会に、治樹の勤めるレストランを借り切った件だ。
規模がちょうどよかったので、せっかくならと思い問い合わせてみたところ、快くメニューの相談などに応じてくれた。
味もサービスもよく、上司も参加した面々も、なにより幹事である健吾も十二分に満足のいく会となった。
その後、店のリピーターとなった同僚もいる。
治樹の点数稼ぎと言われてしまえばそれまでだが、そんなつもりはないし、同じ金と時間を使うなら応援したい相手に注ぐ、というのはもとからの主義でもある。
「これ、来月からのメニューです。よかったら拡散してください」
「喜んでしますよ、周りにもファンがいるんで」
治樹がバッグから紙を取り出して、一枚くれる。
後で写真を撮って、みんなに回そうと決めた。
「じゃあ、郁実をよろしくお願いします」
「お預かりします」
ガレージのある裏手に回る治樹に頭を下げた。
車内に戻ると、助手席の郁実が、なにやらむくれていた。