あ。

しまった、と思いつつ「実は、そうなんです」と答える。

高校の頃はさておき、大学生になった今はもう、自分の相手の年齢を無理に隠そうとは思わないけれど、一般的に考えて、驚かれるだろうという自覚はある。

けれど社長の娘は、それ以上深入りせずにいてくれた。



「いいなあ、学生の頃、こんな素敵な彼がいたら、楽しいですね」

「その、そう思ってもらえてたら、嬉しいですけど」

「僕がもらうよって、ご本人にはもう言ってあるんですか?」

「そろそろ契約のお話を…」



社長の娘はくすくす笑って、顔を上げられないほど恥ずかしくなった健吾が、なんとか仕事の話に戻そうとするのを許してくれた。





「ごめんね、遅れちゃった」

「大丈夫だよ」



郁実が家から走り出てくる。

運転席から手を伸ばし、助手席側のドアを開けてやりながら、郁実の兄の治樹が玄関から出てくるのを見つけた。

車から降りて、「こんにちは」と声をかける。

携帯をいじっていた治樹が、健吾に気づいて笑顔になった。



「あっ、どうも、この間はありがとうございました」

「いえ、こっちもすごく喜んでもらえたんで」



治樹が言っているのは、健吾が会社の上司の送別会に、治樹の勤めるレストランを借り切った件だ。

規模がちょうどよかったので、せっかくならと思い問い合わせてみたところ、快くメニューの相談などに応じてくれた。

味もサービスもよく、上司も参加した面々も、なにより幹事である健吾も十二分に満足のいく会となった。

その後、店のリピーターとなった同僚もいる。

治樹の点数稼ぎと言われてしまえばそれまでだが、そんなつもりはないし、同じ金と時間を使うなら応援したい相手に注ぐ、というのはもとからの主義でもある。



「これ、来月からのメニューです。よかったら拡散してください」

「喜んでしますよ、周りにもファンがいるんで」



治樹がバッグから紙を取り出して、一枚くれる。

後で写真を撮って、みんなに回そうと決めた。



「じゃあ、郁実をよろしくお願いします」

「お預かりします」



ガレージのある裏手に回る治樹に頭を下げた。

車内に戻ると、助手席の郁実が、なにやらむくれていた。