人生に男の存在を加えるのは、その後でも全然遅くない。

いつだってできるし、いつまでだってできる。

郁実自身にその思いを理解してもらうのは難しいとわかっていたし、自分のエゴでしかないのも承知していた。

ごめんな、とずっと心で謝っていた。



「生島さん?」

「あ、すみません、えーと…そうですね、いつかは」

「今のお相手と?」

「…できれば」

「男の人が結婚したいと思うのって、どういう心理なんでしょう」



難しい質問来たなあ、と内心でプレッシャーを感じる。

へたに答えたら、このふたりの将来に影響を与えかねない。

社長の娘も、乾いたことを言いつつ恋人との関係で悩んでいるんだろう、期待を込めた目でこちらを見てくる。

えーと、と健吾は言葉を探した。



「あくまで僕の場合ですが」

「はい」

「たとえば僕の相手が、いずれ働きだしたとき、昨日の僕のように、どこからか縁談を持ち込まれるような事態を想像すると」



ペンをいじりながら、そういうことは実際、起こりうるだろうなと考えた。



「そんなことになる前に、僕がもらってしまおう、と思います」



社長の娘が、きょとんとする。

あれ、と見返すと、さもおかしそうに笑われた。



「意外、生島さん、独占欲強いんですね」

「えっ、でも、結婚てそういうことじゃないですか? 自分のものにしたいみたいな…」

「いろいろありますよ、共同生活することで経済的負荷を軽くしたいとか、とにかく将来的に子供がほしいとか、親が厳しいとか」

「あっ、そうか…そうですね」



言われて初めて気づき、焦った。

そうか、そういう心理もあるのか。

あれ、俺って、ほんとに独占欲強いのか?



「生島さんが赤くなってるとこ、初めて見ました」

「いや、あれ…?」

「いずれ働きだしたとき、って、彼女さん、まさかまだ学生?」