「どした?」
1階に下りたところで、健吾くんが不思議そうに私を振り返った。
エレベーターの中で、私がずっと、彼の後ろに隠れるようにしていたからだ。
「他に人がいたから」
「いたから、なんだよ」
「…まずいかなとか」
健吾くんはぽかんとして、それから楽しそうに笑った。
「いちいちそんな詮索するほど、みんな暇じゃねーよ」
バス停までの道を歩きながら、片手で私の頭をぐいとなでる。
私を安心させるように。
だけど私は知っている。
制服を着ている私とは、健吾くんは絶対にキスをしない。
「じゃな」
「うん、行ってらっしゃい」
片手をパンツのポケットに入れて、バス停の少し先の駅に向かうため、私と別れる。
手を振るのはいつも、私のほう。
彼はちらっと微笑むだけでそれに応える。
私たちは、こんな感じ。
■
「うん、正直、古浦(こうら)の成績ならもう少し冒険してもいいと思うけど」
「いろいろ事情がありまして」
「だよな。本番で力を出しきれるように、体調管理気をつけてな。奨学金の予約申請は、後期に手続きあるから」
担任の先生にお礼を言って、指導室を後にした。
日当たりのいい廊下は、初夏の熱気で蒸れている。
表向きは自習中の、要するに担任不在で大騒ぎの教室に戻り、次の出席番号である小瀧靖人(こたきやすと)の、寝ている頭を叩いた。
1階に下りたところで、健吾くんが不思議そうに私を振り返った。
エレベーターの中で、私がずっと、彼の後ろに隠れるようにしていたからだ。
「他に人がいたから」
「いたから、なんだよ」
「…まずいかなとか」
健吾くんはぽかんとして、それから楽しそうに笑った。
「いちいちそんな詮索するほど、みんな暇じゃねーよ」
バス停までの道を歩きながら、片手で私の頭をぐいとなでる。
私を安心させるように。
だけど私は知っている。
制服を着ている私とは、健吾くんは絶対にキスをしない。
「じゃな」
「うん、行ってらっしゃい」
片手をパンツのポケットに入れて、バス停の少し先の駅に向かうため、私と別れる。
手を振るのはいつも、私のほう。
彼はちらっと微笑むだけでそれに応える。
私たちは、こんな感じ。
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「うん、正直、古浦(こうら)の成績ならもう少し冒険してもいいと思うけど」
「いろいろ事情がありまして」
「だよな。本番で力を出しきれるように、体調管理気をつけてな。奨学金の予約申請は、後期に手続きあるから」
担任の先生にお礼を言って、指導室を後にした。
日当たりのいい廊下は、初夏の熱気で蒸れている。
表向きは自習中の、要するに担任不在で大騒ぎの教室に戻り、次の出席番号である小瀧靖人(こたきやすと)の、寝ている頭を叩いた。