二杯目のジュースもぺろりと飲み干した健吾を、夫人がにこにこと好意的な目で見つめる。
それまで黙っていた社長が、初めて口を開いた。
「生島さんは、おいくつだったっけね」
「25です」
「独りかね?」
「はい」
夫婦がなにやら、顔を見合わせてうなずき合っている。
この流れは…。
辞去の挨拶を頭の中で練りはじめたとき、社長の目が健吾を射た。
「夕食を食べていきなさい」
えっ、命令…?
鞄に伸ばしていた手をちらっと見られ、引っ込める。
嫌な予感しかしないけれど、ほかになにを言えただろう。
「あの、では、いただきます…」
■
こういう営業職についていれば、正直、誰もが一度は経験する。
ありがたいことだし、光栄でもある。
が。
「あそこまでしつこいの初めてだった…」
「娘をもらってくれってやつか」
夫婦の強靭な推しに、困ったというより途中から恐怖のほうが強くなり、せっかくの食事も味どころではなく、ひたすら噛んで飲み込んだ。
翌日である今日、同期の遠藤に泣き言を漏らす。
会社の食堂は閉塞的で好きじゃないので、たいてい食べに出る。
近所の定食屋で、健吾は疲れてうなだれた。
「娘さんが小学生とかいうオチなら、逃げやすいのにな」
「それがさあ、すげえ微妙な年齢なの。23だって」
「うわ、リアル」
「だろ」
「本人もその場にいたのか?」
「いや、勤めてるらしくて、帰ってなかった」
それだけが救いだ。
23歳の女性なんて、本人を目の前にして断るのも気まずい。
運ばれてきた天丼に箸をつけながら、ため息をついた。
それまで黙っていた社長が、初めて口を開いた。
「生島さんは、おいくつだったっけね」
「25です」
「独りかね?」
「はい」
夫婦がなにやら、顔を見合わせてうなずき合っている。
この流れは…。
辞去の挨拶を頭の中で練りはじめたとき、社長の目が健吾を射た。
「夕食を食べていきなさい」
えっ、命令…?
鞄に伸ばしていた手をちらっと見られ、引っ込める。
嫌な予感しかしないけれど、ほかになにを言えただろう。
「あの、では、いただきます…」
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こういう営業職についていれば、正直、誰もが一度は経験する。
ありがたいことだし、光栄でもある。
が。
「あそこまでしつこいの初めてだった…」
「娘をもらってくれってやつか」
夫婦の強靭な推しに、困ったというより途中から恐怖のほうが強くなり、せっかくの食事も味どころではなく、ひたすら噛んで飲み込んだ。
翌日である今日、同期の遠藤に泣き言を漏らす。
会社の食堂は閉塞的で好きじゃないので、たいてい食べに出る。
近所の定食屋で、健吾は疲れてうなだれた。
「娘さんが小学生とかいうオチなら、逃げやすいのにな」
「それがさあ、すげえ微妙な年齢なの。23だって」
「うわ、リアル」
「だろ」
「本人もその場にいたのか?」
「いや、勤めてるらしくて、帰ってなかった」
それだけが救いだ。
23歳の女性なんて、本人を目の前にして断るのも気まずい。
運ばれてきた天丼に箸をつけながら、ため息をついた。