二杯目のジュースもぺろりと飲み干した健吾を、夫人がにこにこと好意的な目で見つめる。

それまで黙っていた社長が、初めて口を開いた。



「生島さんは、おいくつだったっけね」

「25です」

「独りかね?」

「はい」



夫婦がなにやら、顔を見合わせてうなずき合っている。

この流れは…。

辞去の挨拶を頭の中で練りはじめたとき、社長の目が健吾を射た。



「夕食を食べていきなさい」



えっ、命令…?

鞄に伸ばしていた手をちらっと見られ、引っ込める。

嫌な予感しかしないけれど、ほかになにを言えただろう。



「あの、では、いただきます…」





こういう営業職についていれば、正直、誰もが一度は経験する。

ありがたいことだし、光栄でもある。

が。



「あそこまでしつこいの初めてだった…」

「娘をもらってくれってやつか」



夫婦の強靭な推しに、困ったというより途中から恐怖のほうが強くなり、せっかくの食事も味どころではなく、ひたすら噛んで飲み込んだ。

翌日である今日、同期の遠藤に泣き言を漏らす。

会社の食堂は閉塞的で好きじゃないので、たいてい食べに出る。

近所の定食屋で、健吾は疲れてうなだれた。



「娘さんが小学生とかいうオチなら、逃げやすいのにな」

「それがさあ、すげえ微妙な年齢なの。23だって」

「うわ、リアル」

「だろ」

「本人もその場にいたのか?」

「いや、勤めてるらしくて、帰ってなかった」



それだけが救いだ。

23歳の女性なんて、本人を目の前にして断るのも気まずい。

運ばれてきた天丼に箸をつけながら、ため息をついた。