「…俺になにを返せっつーの…」
「誰かウーロン茶頼んでくれない? この人今日、ダメな酒だわ」
青井の冷静な声に、遠藤たちのバカ笑いが重なった。
■
「暑かったでしょう、生島さん、こちらへどうぞ」
「ありがたいです、お邪魔します」
自動車部品を製造し、国内にも海外にも納品している工場の事務所を訪れると、社長夫婦が住居のほうへ招いてくれた。
といっても事務所と同じ建屋にあり、間を土間が横切っているだけだ。
昔ながらの座卓に、氷の入った涼しげな飲み物が載っている。
座布団の感触に、祖父母の家を思い出しながら、健吾はありがたくいただいた。
梅のジュースだった。
「手作りですか」
「そうよ、毎年作るの、おかわりどうぞ」
「いただきます」
失礼を断って、スーツの上着も脱いだ。
このあたりはこういう工場が密集しているため、車を置いて徒歩で回るほうが効率がいい。
しかし夏場はもう、途中で意識が途切れるんじゃないかと思う。
汗をかくのも下手になったな、と運動不足を嘆いた。
遠藤に誘われている、社内のフットサルチームにでも入ろうか。
「経理処理、楽になりました?」
「なったなった! って言ってもね、この人はパソコンなんて全然わからないから、もっぱら私と経理の女の子だけ恩恵を受けてるんだけど」
社長夫人がころころと笑いながら、社長の肩を叩く。
いかにも職人気質の社長は、妻が楽になったのを喜んでいるのか恥ずかしいのか、にやりと口角を上げただけだった。
「ご近所さんに聞いたらね、もう、すごい大変なソフトを入れちゃって、使わない機能ばっかりなのにパソコンは動かない、みたいなことも聞いて」
「残念ですが、たくさんあるんですよ、そういうケース」
「生島さんのおかげだわ。これに慣れたら、在庫管理のソフトを新しくすることも考えるわ」
「専用パソコンになってしまってるんでしたよね、今」
「そうなの、古いシステムだから。でも使い慣れてるし、機能自体に不足があるわけじゃないので、もったいなくて」
「であれば無理に変える必要はないですよ。ただあの経理システムは、拡張することで在庫管理機能を持たせられるので、そのことだけ頭に留めておいていただければ」
「1台のパソコンで管理できて、使い勝手も同じってことよね」
「はい、バージョンアップや保障も一元化できますし。でもまあ、現時点でお困りでないのであれば、急がなくていいと思います」
「誰かウーロン茶頼んでくれない? この人今日、ダメな酒だわ」
青井の冷静な声に、遠藤たちのバカ笑いが重なった。
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「暑かったでしょう、生島さん、こちらへどうぞ」
「ありがたいです、お邪魔します」
自動車部品を製造し、国内にも海外にも納品している工場の事務所を訪れると、社長夫婦が住居のほうへ招いてくれた。
といっても事務所と同じ建屋にあり、間を土間が横切っているだけだ。
昔ながらの座卓に、氷の入った涼しげな飲み物が載っている。
座布団の感触に、祖父母の家を思い出しながら、健吾はありがたくいただいた。
梅のジュースだった。
「手作りですか」
「そうよ、毎年作るの、おかわりどうぞ」
「いただきます」
失礼を断って、スーツの上着も脱いだ。
このあたりはこういう工場が密集しているため、車を置いて徒歩で回るほうが効率がいい。
しかし夏場はもう、途中で意識が途切れるんじゃないかと思う。
汗をかくのも下手になったな、と運動不足を嘆いた。
遠藤に誘われている、社内のフットサルチームにでも入ろうか。
「経理処理、楽になりました?」
「なったなった! って言ってもね、この人はパソコンなんて全然わからないから、もっぱら私と経理の女の子だけ恩恵を受けてるんだけど」
社長夫人がころころと笑いながら、社長の肩を叩く。
いかにも職人気質の社長は、妻が楽になったのを喜んでいるのか恥ずかしいのか、にやりと口角を上げただけだった。
「ご近所さんに聞いたらね、もう、すごい大変なソフトを入れちゃって、使わない機能ばっかりなのにパソコンは動かない、みたいなことも聞いて」
「残念ですが、たくさんあるんですよ、そういうケース」
「生島さんのおかげだわ。これに慣れたら、在庫管理のソフトを新しくすることも考えるわ」
「専用パソコンになってしまってるんでしたよね、今」
「そうなの、古いシステムだから。でも使い慣れてるし、機能自体に不足があるわけじゃないので、もったいなくて」
「であれば無理に変える必要はないですよ。ただあの経理システムは、拡張することで在庫管理機能を持たせられるので、そのことだけ頭に留めておいていただければ」
「1台のパソコンで管理できて、使い勝手も同じってことよね」
「はい、バージョンアップや保障も一元化できますし。でもまあ、現時点でお困りでないのであれば、急がなくていいと思います」