「…俺になにを返せっつーの…」

「誰かウーロン茶頼んでくれない? この人今日、ダメな酒だわ」



青井の冷静な声に、遠藤たちのバカ笑いが重なった。





「暑かったでしょう、生島さん、こちらへどうぞ」

「ありがたいです、お邪魔します」



自動車部品を製造し、国内にも海外にも納品している工場の事務所を訪れると、社長夫婦が住居のほうへ招いてくれた。

といっても事務所と同じ建屋にあり、間を土間が横切っているだけだ。

昔ながらの座卓に、氷の入った涼しげな飲み物が載っている。

座布団の感触に、祖父母の家を思い出しながら、健吾はありがたくいただいた。

梅のジュースだった。



「手作りですか」

「そうよ、毎年作るの、おかわりどうぞ」

「いただきます」



失礼を断って、スーツの上着も脱いだ。

このあたりはこういう工場が密集しているため、車を置いて徒歩で回るほうが効率がいい。

しかし夏場はもう、途中で意識が途切れるんじゃないかと思う。

汗をかくのも下手になったな、と運動不足を嘆いた。

遠藤に誘われている、社内のフットサルチームにでも入ろうか。



「経理処理、楽になりました?」

「なったなった! って言ってもね、この人はパソコンなんて全然わからないから、もっぱら私と経理の女の子だけ恩恵を受けてるんだけど」



社長夫人がころころと笑いながら、社長の肩を叩く。

いかにも職人気質の社長は、妻が楽になったのを喜んでいるのか恥ずかしいのか、にやりと口角を上げただけだった。



「ご近所さんに聞いたらね、もう、すごい大変なソフトを入れちゃって、使わない機能ばっかりなのにパソコンは動かない、みたいなことも聞いて」

「残念ですが、たくさんあるんですよ、そういうケース」

「生島さんのおかげだわ。これに慣れたら、在庫管理のソフトを新しくすることも考えるわ」

「専用パソコンになってしまってるんでしたよね、今」

「そうなの、古いシステムだから。でも使い慣れてるし、機能自体に不足があるわけじゃないので、もったいなくて」

「であれば無理に変える必要はないですよ。ただあの経理システムは、拡張することで在庫管理機能を持たせられるので、そのことだけ頭に留めておいていただければ」

「1台のパソコンで管理できて、使い勝手も同じってことよね」

「はい、バージョンアップや保障も一元化できますし。でもまあ、現時点でお困りでないのであれば、急がなくていいと思います」