健吾に合わせて、土日はあまりバイトを入れずにいてくれるので、ちょっと遠出して一泊の小旅行をしたりもした。

家族旅行をした記憶がないという郁実は、どこへ連れていっても喜んで、嬉しそうに旅館の浴衣を着て、宿の食事に感動して、夜は健吾の布団に潜り込んできて、けれどはしゃぎ疲れてそのまま寝入ってしまったりした。


かわいい。

そりゃもう、余った分が憎らしさに変わるほどかわいい。



「俺、野球は好きだけど野球部にはいい思い出なくてね…」

「は、いきなりなに?」



一杯目のビールをほとんど一気に片づけ、誰かが飲んでいた焼酎を失敬する。

青井は顎くらいの長さで切りそろえたきれいな髪を耳にかけながら、ぼそぼそとしゃべる健吾の話に耳を寄せた。



「あいつらってグラウンドを自分のものだと思ってるだろ。あとサッカー部な。で、陸上部って空いたスペースをなんとか使わせてもらってるみたいなとこあって」

「ああ、中学がそんな感じだった」

「嫌がらせみたいにボールとか飛んでくるし、こっちはマネージャーとかいないし、なんかこう、青春格差っていうか」

「暗いわねー、今日のいく」



うるさい。



「あと俺、あの、靖人くんね」

「ああ!」



そこで青井がようやく、合点がいったように大きくうなずいた。



「なんで急に野球部の話かと思ったら」

「帰省してんだってさ、郁がすげえ喜んでて」

「あんた、ああいうタイプにコンプレックスあるんでしょ」



ぐっさー、と心臓を貫かれたような気分だった。

さすが青井は鋭い。

本人たちの前では絶対に気取られまいとひた隠しにしてきた、健吾の複雑な思いを、一言で片づけるシビアさもさすがだ。



「ああいう、精悍で男っぽいの、憧れるんでしょ」

「憧れてはいない」

「勝てない気がするんでしょ?」

「勝て…」



強がろうと思ったもののできず、唇を噛んだ。

どちらかというと中性的で、身長は十分あるにもかかわらず「かわいい」と形容されることのほうが多かった人生。

どれだけトレーニングをしても身体につく筋肉量には限界があり、骨格も華奢なほうで、悩むとまではいかなかったが、男らしい体格の同級生をうらやましく思ったりはした。