「そういうことだな」



ねえ、この間はちゃんと伝えられなかったけどね。

やっぱりありがとう。

待っててくれてありがとう。

わがままにつきあってくれてありがとう。

私のやり方を、否定しないでくれてありがとう。



「今月、お兄さんあいてるかな」

「月に二日くらいは必ず土日の休みあるから、平気だよ」



貸し切り状態の車両で、並んで座る。

背後の景色から、だんだんと建物が消え、空が広くなっていく。



「お兄ちゃんになんて言うの?」

「なんて言おうかなあ…」



線路と車輪が刻む、規則正しい律動に眠気を誘われているような表情で、健吾くんが微笑んだ。



「まずはこの間殴られて折れた歯の、治療代請求かなあ」

「え、折れたの!?」

「折れたってのは言いすぎだけど、ぐらぐらになったから、二か月くらい固定してた」



えええ…!

それは申し訳ない…!



「どこ?」

「ここ」



口をいーっと開けて、左下の、手前の奥歯のあたりを指す。

のぞき込もうとしたら、不意打ちのように軽いキスが来た。

さすがに戸惑う私を、窓枠に頬杖をついた健吾くんが、人の悪い笑みを浮かべて見つめる。



「隙がありすぎなんじゃないですかね、郁ちゃんは」

「やっぱり妬いてるんだ」

「別に」