「ダメだ、俺、最近リサーチ不足」

「忙しいもん、仕方ないよ」

「そんなことは言い訳にならないわけよ」

「大人の世界では」

「そう」



ビールをおいしそうに飲んで、ふあーと息をつく。

高校の頃からバイトをしていた飲食店に、卒業後そのまま勤め、二年前に調理師免許をとった。

母が生きていた頃は、兄がそんな道に進むとは想像もしなかった。

たぶん兄本人もそうに違いない。



「おいしかったでしょ」

「うん、素朴で」

「また持って帰ってくるよ」

「え、どこから?」



わわわ。

カーペットに座っている私は、見下ろされているのを感じながら、この焦りが伝わりませんようにと祈った。



「買って帰ってくるって意味」

「あ、そっか、よろしく」



ぽんぽんと頭を叩くついでに、私のやっているテキストをのぞき込んで「そこ間違ってるぞ」とすぐ指さした。



「えっ」

「awayは前置詞としては使わない、答えは副詞」

「あれ、じゃあその次は?」

「そこは合ってるよ、そのdownはbrokeにかかる副詞」

「…その次は?」

「それは…おい、基礎的なことがわかってない気配があるな」



うっ。

兄が私の隣に下りてきてくれる。



「英語は鬼門で…」

「今からなら間に合うから、1年のテキストから勉強し直せ。受験英語が中学英語と違うのは、勘と雰囲気じゃ太刀打ちできないってとこなんだから」



私の手からシャーペンを取って、テキストに書き込みはじめる。



「ほら、こうやって書き換えられるだろ、これが成立すれば副詞と考えてよくて…」