「──靖人!」



特急券を買っている暇がなかったので、改札を駆け抜けて、ホームにいる靖人を見つけた。

後ろで駅員さんが「中で切符買いなさいよ!」と叫んでいるのを、健吾くんがとりなしてくれている。


靖人は身軽にボディバッグひとつ。

背が高いし、体格もいいから、遠目にもすぐわかる。

私を見つけて目を丸くしているところに、駆け寄って怒りのまま突き飛ばすと、飲んでいたペットボトルのお茶がこぼれ、靖人のブルゾンを濡らした。



「おい!」

「引っ越しは来週だって言ってたじゃん! いきなりなに!?」

「お前こそいきなりなんだよ、すげースピードで現れたな」

「近くにいたの!」



電車の時刻を聞き出すと、ファーストフード店を飛び出して、わけもわからずにいる健吾くんと、駅までの道を全速力で走ったのだ。

私は肩で息をしながら、あまりのショックに地団太を踏む勢いで腹を立てていた。

言葉が出てこず、涙だけが浮かんでくる。

靖人が、ちらほらいる周りの人を気まずそうに確認した。



「健吾くん、揉めてるぞ」

「嘘ついたの?」

「…正直なとこ言ったら、お前絶対見送りとか来るだろ」

「決まってるじゃん、東京行っちゃったら、めったに会えないんだよ」

「そういうのが嫌だったの」

「なんで?」

「なんでって…」



顔をしかめて、詰め寄る私から逃げようとする。

逃がさないよう、ブルゾンの袖を掴んでやった。



「なんでもいいだろ、お前は健吾くんと仲よくしてろよ」

「それで黙って出てくつもりだったの?」

「それでっていうか…」

「靖人こそ残酷だよ!」



ついに泣いた。

靖人が、覚悟していたようにぎゅっと口をつぐんで、私に罵られる準備をする。

さすが長いつきあいなので、このあたり、わかっている。

なので遠慮なく、言いたいことを浴びせた。