「健吾くんの身体って、ほんときれいだねえ」

「普通だろ」

「郁、って呼んでくれる声がかすれてくるの、最高だった」

「こういう反応、一番困るな…」



恥ずかしいを通り越していたたまれないらしく、健吾くんは真っ赤になってうなだれ、腕で顔を隠す。

そうするとよく見える、紺色のニットから出た首筋とか、耳の後ろできれいにカットされた髪とか、そんなものがどうにも色っぽく見えて、愛しい。



「やっぱり自信つくよ。もっと早くしてくれればよかったのに」

「それ自信じゃねえよ、好奇心が満たされて、テンション上がってるだけだろ」

「自信だよ、だって健吾くんのこと、この人私のものなんですって初めて確信持って思えてるもんね、もう叫びたいくらい!」

「それがテンション上がってるって言ってんの」

「どうしてそう否定的なの、大人の余裕見せてるつもりなの? テンションくらい上がるよ、どれだけの体験だと思ってるの!」

「すみません…」

「美菜さんのときはどんな感じだったの?」



好奇心のまま訊いたら、健吾くんが飲んでいたコーラにむせた。



「おま、趣味悪…訊くか、そんなの」

「大人がはずみでやっちゃうと、どんな事後を迎えるのかなって」

「…普通だよ」

「普通なんてわかんない」

「やっちまったなーとか笑って、シャワーとか浴びて、もう少し飲むかとか言って、そんな具合だよ。一回だけだったっつってんだろ、事後もクソも…」

「気になってたんだけどさあ」



言いたいことがあり、私は健吾くんをねめつけた。

やましいせいか、嫌そうにしながらも聞いてくれる。



「一回だけ一回だけって、一回ならセーフみたいな言い方してるけどさ、それ健吾くんていうか、男の人の考えだよ。女は一回目こそ、一番ドキドキして、勇気が必要なんだよ」

「でも、向こうだって飲んでたし…」

「普段隠してるもののレベルが違うんだよ、それ全部見せて、身体の中まで入ってくるの許すんだよ、この人とって思わなきゃ、できるわけないじゃん。そのうえでの"はずみ"なの。健吾くんが言ってる意味とは違う。反省しなよね!」

「郁が大人になっちゃったよ…」



悲しそうにストローを噛む様子に、テーブルを叩いた。



「してる、反省!?」

「はい、してます…」

「そうだ、これね、遅れちゃったけど」