「やっぱり無理?」



高校生相手じゃ、その気にならない?

その手を取ると、なにか言おうとしてはやめて、最後に苦笑する。



「無理じゃないよ」

「難しければ、ちゃんと卒業を待ってからでも」

「無理じゃないから、自制心なんだよ」



微笑むと、まだ片手に鞄を持ったまま、首をかしげるようにして、そっとキスをくれる。

半年焦がれたキス。

出会ったときとちょうど同じ季節で、健吾くんはスーツで、変わらない部屋で。

いろいろと記憶がよみがえってくる。



「なに笑ってんだ」

「健吾くんは、優しいなあって」

「ん?」

「口悪いのに人がよくて、それでこんな子供背負っちゃって、けっこう不器用さんだよね」



健吾くんは私をじっと見下ろして、なにか考えている。



「別に、背負ったとか思ってないぜ」

「でもあの時点では、私のこと別に、好きじゃなかったでしょ」

「それは…前に説明したろ?」

「聞いたよ。要するに、さみしそうな子の相手になってあげたいって、思ってくれたんでしょ?」



今となっては、その優しさに感謝だ。

それから、相手をするからには本気で、って思ってくれた真面目さにも。

そんな思い出に浸っていたら、いきなりお尻を鞄でぶっ叩かれた。



「いったーい!」

「お前、この期に及んでそれか…」



あれ?

かすかに震える低い声で、健吾くんの怒りの度合いがわかる。

お尻を押さえながら、地鳴りでもしそうな雰囲気で怒気を放っている健吾くんを、慌ててなだめた。



「最初、最初の話だよ」

「最初だって別に、優しさでつきあったわけじゃねーよ」

「あっ、そうなの?」