悲痛な叫び声をあげて、ついに顔を覆ってしまった。

その首筋が赤い。

肩に手を載せて、隙だらけの耳に顔を近づけた。

健吾くんがびくっとする。



「最初に会ったときの続き、しよ?」





「──引き返すなら今だよ、俺」

「まだぶつぶつ言ってるの、男らしくない!」



せっかくならあのときと同じホテルで、とねだって、なにやら頭の中でぐるぐる考えているらしく、ほとんど反応のなくなってしまった健吾くんを誘導して来てみたはいいものの。

不自然に暗い駐車場に車を入れたところで、健吾くんはハンドルに突っ伏してしまった。

ねえ、とわき腹をつつくと、じろっと横目でにらまれる。



「言っとくけど、兄貴にばれたとき、俺がかろうじて堂々としていられたのは、この自制心があったおかげなんだからな…」

「わかったよ、でももうその一件は終わったんだし、いいじゃん」

「終わってねーよ」

「え、そうなの?」



男同士でわかり合ったんじゃないの?



「郁が卒業したら、ちゃんと挨拶に行こうと思ってたの」

「えっ、来てくれるの、嬉しい」

「だから、そのときに後ろめたかったら、会いづらいだろ」

「そんなの、私がお兄ちゃんに健吾くんとの出会いを説明したら、後ろめたいどころじゃなくなるよ、どうせ」

「言うなよ、絶対!」

「言わないから、早く入ろ」



ほら、と私が車を降りると、あからさまに渋々な態度で一緒に来てくれる。



「同じ部屋、あいてるかなあ」

「俺、あのときのことはほんと、思い出したくないんだけど…」

「あいてた!」

「まじか」



私はパネルのボタンを押して、出てきた鍵を持って意気揚々とエレベーターに向かった。

部屋は懐かしかった。

全然変わっていない、シックな家具に落ち着いた照明。

大喜びで部屋に入った私と違い、健吾くんは入り口のあたりから動かず、困ったような微笑みを向けてきた。