「なんで折っちゃったの?」

「会社で床の配線チェックしてたら、後輩がご丁寧に、すっげえ高いところから俺の手の上にモニタを落としてくれて」

「…その後輩って、もしかして高橋っていう?」

「なんで知ってんの?」



不思議そうに目をしばたたくので、笑ってしまった。

口は悪いけど、面倒見のいい先輩なんだろうなあ、健吾くん。

すごい想像つく。



「私と会ったらなに話そうとか、考えた?」

「そりゃな」



進行方向を見ながら、ちょっと笑う。



「でも今、その1割も話せてない」

「そうなの?」

「顔見たら、飛んじまった」



ちょうど赤信号で停まり、健吾くんがこちらを見た。

恥ずかしそうな、しょうがないなって自分を笑っているような、そんな顔で。



「私に会えて嬉しい?」

「嬉しいよ、なあ、どこ行く? 飯食うにはちょっと半端なんだよな、時間的に…」



ハンドルに置いた手を少し傾けて、腕時計を確認する。

なにも言わない私に気づくと、「なあ」ともう一度言いながらこちらを見て、その口の形のまま「あ」と声を発したきり固まった。

私の視線を受け止めて、なにやら必死な感じに言う。



「やめろ、お前がなに考えてるか、わかるぞ」

「あ、ほんと? 言ってみて」

「嫌だ」

「じゃあ私が言うね」

「やめろ!」



本気で聞きたくないんだろう、両手で耳をふさぐ。

面白くなって、私はいやらしく食い下がってみた。



「言っていい?」

「脚さわるな」

「もう学校いかないし、卒業したみたいなものだと思うんだよね」

「やめろって! 俺、今言われたら、かわせる自信ない…」

「やった! じゃあ言うね」

「やめろ!!」