そう言って、ひょいと親指で指した先には、建物の入り口が、淡い紫色に光っていた。
そうか、このあたりはそういう場所だったのか。
壁に値段が書いてあったので、思わずまじまじと見て、それが高いのか安いのかよくわからず、とりあえずあの男の人はこれを初回無料にする気だったんだな、と納得した。
『なにチェックしてんの』
『いや、見慣れなくて』
『あ、使ったことないんだ?』
使ったことというか、そういう行為そのものもですね…とここで説明するのも気が引けて、こくんとうなずく。
健吾くんは、片手をポケットに入れた姿勢で、私を上から下までさっと見ると、なんのためらいもなく尋ねた。
『入ってみたい?』
…回想していて思ったんだけど、この健吾くんは、それはそれでなかなかなんというか、アレじゃないか?
でも後から聞いたところによると、この時点では、下心はいっさいなかったんだって、ほんとに。
なんとなく面白そうだと思って、そう訊いてみただけ、らしい。
でもなあ、訊き方がもう、うますぎるよな。
もしこれが、『入ってみる?』だったら、私は『いや、いいです』と首を振っただろう。
でも、入ってみたいかと訊かれたら、そりゃあ興味はあるから、うん入ってみたい、となる。
そんなわけで、再度うなずくのに、なんの葛藤も必要なく、そんな私に健吾くんは、実に爽やかに笑いかけた。
『じゃ、コンビニ寄ってこ』
■
「この間のシュークリーム、どこの?」
「学校の裏のケーキ屋さん」
「イートインのあるとこ?」
「それ、ちょっと前ね。最近お店が入れ替わって、テイクアウトだけになったんだよ」
うわあーと兄が嘆いた。
お風呂上がりのタオルを首にかけて、冷蔵庫の中を眺めている。
やがて缶ビールをひとつ取り出すと、リビングにやってきてソファに身を沈めた。
そうか、このあたりはそういう場所だったのか。
壁に値段が書いてあったので、思わずまじまじと見て、それが高いのか安いのかよくわからず、とりあえずあの男の人はこれを初回無料にする気だったんだな、と納得した。
『なにチェックしてんの』
『いや、見慣れなくて』
『あ、使ったことないんだ?』
使ったことというか、そういう行為そのものもですね…とここで説明するのも気が引けて、こくんとうなずく。
健吾くんは、片手をポケットに入れた姿勢で、私を上から下までさっと見ると、なんのためらいもなく尋ねた。
『入ってみたい?』
…回想していて思ったんだけど、この健吾くんは、それはそれでなかなかなんというか、アレじゃないか?
でも後から聞いたところによると、この時点では、下心はいっさいなかったんだって、ほんとに。
なんとなく面白そうだと思って、そう訊いてみただけ、らしい。
でもなあ、訊き方がもう、うますぎるよな。
もしこれが、『入ってみる?』だったら、私は『いや、いいです』と首を振っただろう。
でも、入ってみたいかと訊かれたら、そりゃあ興味はあるから、うん入ってみたい、となる。
そんなわけで、再度うなずくのに、なんの葛藤も必要なく、そんな私に健吾くんは、実に爽やかに笑いかけた。
『じゃ、コンビニ寄ってこ』
■
「この間のシュークリーム、どこの?」
「学校の裏のケーキ屋さん」
「イートインのあるとこ?」
「それ、ちょっと前ね。最近お店が入れ替わって、テイクアウトだけになったんだよ」
うわあーと兄が嘆いた。
お風呂上がりのタオルを首にかけて、冷蔵庫の中を眺めている。
やがて缶ビールをひとつ取り出すと、リビングにやってきてソファに身を沈めた。