「会いたかったよ、健吾くん」



人目を気にしてか、健吾くんがためらう気配がして、でもすぐに、腕が背中に回された。

スーツのとき、動くたびシュッと生地が鳴るの、いいよね。

ぎゅうっと健吾くんの腕に力がこもる。

痛いくらい。



「俺も」



その声は、どう否定しようとしても無理ってくらい嬉しそうで、さすがの私も、全面的に信じるしかない。


ねえ、この人ってさ。

私のこと、相当好きじゃない?





「で、肝心の試験はどうだったんだ?」

「ほぼ問題なくできたよ、自分的には」

「じゃあ、春から俺の彼女は女子大生か」



運転しながら、健吾くんが楽しそうに笑う。

彼女という響きに、今さらちょっとドキッとした。



「それなら人に言える?」

「男からはうらやましがられて、女からは白い目で見られるっていうパターンだろうな」



そんなものか。

健吾くんはスーツの上着を後部座席に置いて、ワイシャツとネクタイ姿になっている。

まだ夕方の早い時間なのもあって、仕事中の健吾くんって、こんな感じなんだろうなって想像がつく。



「今日も仕事だったの?」

「半日だけな」

「その指のテープ、なに?」



ハンドルを握る左手の中指に、白いテープが巻かれているのが気になって訊くと、予想外の答えが返ってきた。



「骨折したの。もう治りかけだけど」

「え! そんな話、してなかったよね?」

「会うときまで言わないほうが、面白いかなと思って」



いやいやいや。

面白くないよ。

知らないところで骨折されてたなんて、ただただびっくりだし、心配だよ。