ぐいとほっぺたをつねられて、そういう意味じゃないよと思った。

やることやって、大学にも受かって、春からの生活も見えてから、自信持って会いたいって、そういう意味。

笑えばいいってもんじゃ…。



「待ってるぞ、行ってやれよ」



私の背中を叩いて、靖人は駅のほうへ走っていってしまった。

健吾くんも私もそれを見送って、視線を戻した瞬間に目が合う。

ようやく足が動いて、私は細い道路を渡った。

健吾くんはなぜか、私を迎えに来るでもなく、ガードレールに座ったまま、にこにこしている。



「久しぶり」

「健吾くん…なんで?」

「だって、今日で受験終わりだろ?」



短くなった煙草を、車の屋根に置いた車内用の灰皿に捨てて、健吾くんは当然のことのように言った。

日曜日なのに、スーツだ。

仕事があったんだろう。



「…私の心づもりでは、発表までが受験って意識で」

「え、そうなの!」



初めて少し焦りを見せる。

その顔がわずかに赤らんだので、私はぽかんとしてしまった。



「俺、てっきり、試験受ければ終わるんだと」

「…だから会いに来てくれたの?」

「今日で解禁だと思ってたから…」



気恥ずかしそうに目をうろうろさせて、そわそわと煙草を探す。

胸ポケットから煙草を取り出したところで、それを押しとどめるように手を重ねると、健吾くんの指は、冷えきっていた。


せめて車の中にいたらよかったのに。

2月の、こんな寒い日に、わざわざ外に出ていなくても。

手を握ると、健吾くんが戸惑ったように「郁?」と呼んだ。


あのね、健吾くん。

健吾くんが、意地悪だったりからかい半分だったりしながらも、約束した通り、毎日必ず連絡をくれたのが、私、本当に嬉しくてね。

一回一回、私の中になにかが積もって、それが気持ちを支えてくれているの、感じていた。



「郁」



健吾くんの首にぎゅっと抱きついた。

今なら言える気がする。

私、愛されていて幸せ。