入試会場である大学の校舎を出ながら、靖人にすがりついた。

靖人は私と学科違いで、ここを受けている。

すべり止めと言えるほど油断はできないって言っていた。


私は奨学金や場所の関係もあって、ここ以外に受かったところで通えないので、いっさいの誇張なしに単願、一発勝負だ。

とはいえ別日程で、競争率の低い別の学部を受けてはいるけれど。



「とりあえずお前はこれで終わったんだろ、喜べ」

「靖人は月末に国立二次?」

「そう」

「その前にここの発表かあ…うう、おなか…」

「十日以上あるのに、ずっとそれやってる気かよ」



あきれながらも心配そうに、背中をさすってくれる。



「もうすぐ健吾くんに会えるんだろ、がんばれ」

「うん、しっかりお願いしたから、それは大丈夫」

「お願いって?」

「初詣のときにね」

「受かりますようにじゃなかったのか、余裕だな」

「どっちにも掛かったお願いごとしたの」



校門を出て、駅に向かおうとしたとき、ふと視界に入ったものに、私は目を疑った。

道路の向こう側の路肩に停められた、シルバーの車。

そのそばで、ガードレールに腰かけて、煙草を吸っている姿。


あれ…?

なんで?



「健吾くんじゃん」



靖人の声に、びくっと反応してしまう。

足が動かなくなってしまった私の顔をのぞき込んで、靖人が「叶ったな」と言った。

呆然としたまま答える。



「半分だけね…」

「なんてお願いしたんだ」



ぼんやり空を眺めていた健吾くんが、ふとこちらを見た。

私たちに気づくと、ちょっと驚いたような顔をしてから、煙草をくわえたまま、にこっと笑う。

靖人が、動かない私の腕をひじで小突いた。


なんてお願いしたのかって?

単純だよ。



「健吾くんと、笑って会えますようにって」

「じゃあもう、後はお前次第だろ」