【月がすごい、見える?】



より近くにいた靖人が、携帯を取ってくれた。



「月?」



なんのことかと見上げると、そこには確かに、すごいと言うしかない光景が浮かんでいた。

月の周りに、大きな大きな、虹色の輪ができている。

一緒に見上げた靖人も、「うわ」と声をあげた。



「雲に反射してるんだな」

「すごい、よく見ると二重だね」



はっきりした輪の外側に、うっすらともうひとつ。

私はいつの間にか立ち上がって、頭上の不思議な美しさに見とれていた。



「口開いてるぞ」

「あ、返事しなきゃ」



見たよ、すごいね…と打ちながら、靖人の視線に気づく。

なにを言いたいか、だいたいわかる。



「すごいな、この状況下で、なにもなかった体で月の話を」

「わかったわかった、靖人にキスされたってちゃんと書くから」

「自分に隙があったって懺悔しろよ、正直に」

「書けるわけなくない!?」



ただでさえ距離があるのに、わざわざ言えないことを作ってくれやがって、と恨みがましく靖人をにらむ。

靖人はいつもの、小バカにしたような表情で、ふんと笑った。

それを見ていたら、なにかがあふれた。



「大好きだよ、靖人」



ついそう口からこぼれて、あっと後悔するも、もう遅い。

靖人は目を丸くして私を見上げ、やがてほかにどうしようもなくなったみたいに、切なく微笑んだ。



「お前、残酷」



その言葉が、胸に突き刺さる。

ぎゅっと携帯を握りしめた。