ほんと、いつだってすぐそこにいるのだ。

靖人の足元にしゃがみ込んで、いかにも夏の終わりって感じのさみしい火花に見入る。

その手を、急に掴まれた。

当然オレンジの球はあえなく地面に落ちて、一瞬で黒くなる。



「ちょっと…」



言いかけた文句は、顔を上げた瞬間に消えた。

見たことのない、靖人の目。

切羽詰まったような、切ないような。


なに、と問いかける間もなく、唇が重なった。

温かい、靖人の唇。

握られた手が、熱い。


呆然としているうちに、それは離れていき、身を屈めた靖人と視線が絡む。

その目にはまだ、さっきの表情が浮かんでいた。

でも靖人は一瞬でそれを消して、いつもの余裕たっぷりの、あきれ半分の微笑みに変える。

私はほっとした。



「…東京の彼女プロジェクトはどうなったの」

「まだ始まってもいねーし」

「油断も隙もないね」



身体の外まで聞こえているんじゃないかと思うような鼓動を隠して、憎まれ口を叩く。

靖人は庭に目を向け、肩をすくめた。



「そもそもあんなの、半分しか本気じゃないし」



横顔を、月明かりが照らす。

家でも学校でも見慣れている、一番長く、一番近くにある顔。



「…残りの半分は?」



訊かれると思わなかったのか、靖人はぱっと私のほうを見て、言うかどうか迷っているような間の後、困ったように笑った。



「ただの強がり」



そのとき、縁側に置いておいた私の携帯が震えた。

無粋に思えるほど明るい画面に、メッセージが出ている。

健吾くんだ。