「サンキュ、けっこう時間かかったな」

「風呂場に出てさあ、退治してた」

「出て」

「ゴ…」

「嫌ー!」




続きを悲鳴でさえぎった。



「郁実、うるさい、ご近所に迷惑だろ!」

「そのご近所が叫ばせたんだよ!」

「どこに捨てればいいかわからなかったから、袋に入れて脱衣所に置いてある」

「お兄ちゃん、捨ててきて!」

「はいはい」

「あとごめん、ここの話し声、風呂場にすごい聞こえる」



サンダルを脱いで、室内に上がりかけた兄が、ちょっと考えてから「あら」と言った。



「聞こえてるよーって言ったんだけど、こっちの声は届かないみたいで」

「そっか、そりゃ悪かった」

「俺のほうこそ、郁実の相手になれなくてごめんね」



縁側にしゃがみ込んで花火を選びながら、靖人が兄に言う。

兄はそんな靖人をじっと見て、縁側にきちんと腰かけ直した。



「そんなこと言わせたかったんじゃないんだ。悪かった、ごめん」

「健吾くん、いい人だよ。普通の、かっこいい人」



すぐに靖人の手元からも、白い火花が上がった。

なんでもないふうに話しながらも、その火花を私の足元に向けてみせるのは忘れず、私は慌てて飛びのく。



「そっか」

「はっきり言って、今の郁実にはもったいないくらいの人」



今度は私が靖人の足元に火花を向けた。

ただのふりだけど、靖人もよけるまねをしてくれる。

兄がため息をつきながら笑った。



「お前も、複雑な立場だな」

「大丈夫、東京の大学行って、かわいい彼女見つけるから」

「早まるなよ、いつか郁実があくかも」

「やめてよ、そういうありもしない希望は捨てないと、一生を棒に振るかもしれないんだぜ、俺」