次の花火を物色していた兄が、こちらを向いた。

同時に私の手元も暗くなる。

水の入ったバケツにそれを投げ入れて、兄のほうに手を出した。

一本を持たせてくれながら、兄が「知らなかったのか」と意外そうな声をあげる。



「なにを?」

「生島さん、店に来たんだよ」



え!?

二本の花火が、ほぼ同時に火花を噴きはじめた。

最近手入れをさぼっているせいでぼうぼうに茂った草たちに、青白い火花が飛び散る。



「え…なんで? いつ頃?」

「会ってわりとすぐ。まだ顔にあざがあった頃。驚かせてすみませんでしたって、名刺渡された」



うちに来てくれた直後くらいだろうか。

兄のお店の話は何度もしていたし、仕事でそのへんをよく通るから、『ああ、あの店』って知ってもいた。

でもまさか、会いに行くなんて。



「…で?」

「いや、それだけ。俺からはなにも言うことなかったから黙ってたし、向こうも仕事中みたいだったし」

「え、なにか話し合いをしたとかでもなくて?」



首をひねる私に、兄があきれてみせる。



「お前、働いてる人間が、自分に敵意を持ってる相手に名刺渡すって、すごい覚悟いるんだぞ。悪用されるかもしれないし、あることないこと会社に通報されるかもしれない」

「…そうか」

「いかにも営業マンぽいけじめのつけ方だなとは思ったけど。ああ出られたら、こっちはもう、なにも言えないよ」



縁側に座っている兄は、自分の腿に頬杖をついて、もう片方の手の先の火花を見つめている。

兄も健吾くんも、私にちっともそんな話、してくれないで。

大人同士で、勝手にわかり合っちゃって。


ほんと、ひとりでなんて生きていない。

私は、いろんな人のおかげで、ここにいる。



「俺も入れて」



そこに、濡れた手をハーフパンツで拭きながら、靖人が家の中からやってきた。