兄の指令に敬礼で応え、小脇に抱えたスイカを叩きながら、家の中に消えていった。

兄が鼻歌を歌いながら、ひとつめの花火に火をつける。

パシュッと破裂音がして、白い火花が庭を照らした。



「お兄ちゃんさあ」

「ん?」

「私の相手が靖人だったらよかったのにって、思ってるでしょ」



兄の横顔が、中途半端に微笑みを残して固まる。

しばらくシューシューという火花の噴射の音だけが響き、やがて兄が苦笑するように吹き出した。



「うん、まあ、靖人だったらっていうか」

「ていうか?」

「もっと俺にも理解できる相手でもよかっただろ、とは思ってる」



私は持ち手の太い、勢いのよさそうなのを選んだのだけれど、火をつけてみると予想外に、優しい火花がシュワシュワと噴き出した。



「健吾くんは理解できない?」

「うーん…自分の身に置き換えてみると、高校生とつきあうとか、どういう心理なのかなって疑問はある。俺は特に、妹がいるからかもしれないけど」

「愛があれば歳の差なんて」

「お前がそれ言えるのか?」



微笑みながらではあったものの、容赦のない返しをしてきた兄に、さすがだなあと思った。

兄はあのとき、健吾くんの気持ちを信じきれていないことを、自ら露呈してしまった私に、気がついていたのだ。

そりゃ、理解できないと言いたくもなるだろう。

なにも言えず、小さく息をついて私も笑った。



「別に、生島さん本人の人格とか性癖を云々する気はないんだけどさ。ほんとのほんとに、うちの妹以外の人じゃダメなんすか? って訊きたくはなっちゃうよな、やっぱり」

「はは」



兄の率直な気持ちを聞いて、共感めいた気持ちになりながら、おや? と違和感に気がついた。

そういえば、前にもなんだか、おかしいなって思ったんだよね。

腰に手を当て、しばらく火花を見つめて考える。

あ!



「私、健吾くんの苗字、教えた?」

「え?」