「ずいぶんかわいいの持ってるね」

「もらった」

「女の子に?」



答えない。

しれっと無視を決め込んで、吊革につかまって窓の外を眺めている靖人が、ぽつりとつぶやいた。



「ほんとあいにくだわ」



私も、無視を決め込むしかなかった。





「私もしかして晴れ女かな?」

「そうかそうか」



靖人の言ったとおり、夕食を食べ終える頃には雨が上がった。

庭先では虫が鳴きだして、夏の夜を彩っている。

気のない返事をした兄は、なぜかお店でもらったという手持ちの花火の封を開けている。

私は縁側のコンクリートに、蝋を一滴垂らしてろうそくを立てた。



「火よーし、バケツよーし」



指さし確認して、いざ花火を選ぼうとしたとき、「おーい」と塀越しに声がかかる。



「ばあちゃんちからスイカもらったんで、おすそわけ」

「おっ、サンキュー、まだ採れんのか」

「もうこれで終わりだって、でも味はいいよ」



靖人がでっかい黒い丸いものを顔のあたりにかかげていた。

もう暗いのでよく見えない。

おいしいもの好きの兄が嬉しそうに言う。



「靖人の実家の野菜は、本気でうまいよな」

「後でみんなで食べよう」



門が開閉する音がして、靖人がうちの庭に入ってくる。



「家の中置いとくよ。冷えてないんだけど、どうする?」

「風呂場に水張って入れといて」

「了解」