「あの…」

「もういいよ、話ってなに」



もういいとか適当なこと言っちゃってるよ、あの健吾くんが。

全然よくなさそうな顔で。

しかも食いぎみに。

これ、今日、野望を果たして帰れるのかな、私。



「…なにか食べる?」

「会社で食ってきた」



さっさと話せ、と全身で言っているので、私は覚悟を決めた。

椅子の上でちょっと姿勢を正し、勇気を振り絞って、健吾くんを正面から見据える。



「しばらく会わないようにしよう、と思う」



かろうじて、声を震わせずに言えた。

発言する前から、私がなにを言う気かと怪訝そうだった健吾くんの表情に、だんだんと驚きの色が見えてくる。

本気かどうか確認するみたいに、じっと私の顔を見つめて、やがてポケットから手を出すと、アイスコーヒーを一口飲んだ。

飲み終えてからも、ストローでグラスの中身をかき混ぜながら、なにか考えている。



「そっか」



ようやくそう言ってくれたのは、だいぶたってからだった。

いつもの健吾くんの声だった。



「しばらくって、いつまで?」

「うーん…区切りがつくまでってことで、卒業までって思ったんだけど」

「長いな」

「待ちきれなそうだから、受験が終わるまでにする」

「たいして変わんねえな」



眉を寄せて、指を折りながら数えている。



「入試、2月だろ? 9、10…たっぷり半年か」

「ごめん」

「いいよ、郁がいろいろ考えて、そう決めたんだろ」



ちらっと微笑みを見せながらも、折った指を見て、まだなにか考えているようだった。

反対されるとも思っていなかったけれど、こんなにすんなり承諾してもらえるとも思っていなくて、拍子抜けする。