嗚咽が漏れた。

兄が私の頭を抱き寄せてくれる。

記憶の中の母と同じように、背中をさすりながら。



「お前は隠し事するには、まだ早いよ」



私はもしかしたら、母を亡くしたとき以来かもってくらい、母を想って思いきり泣いた。

でもきっと、兄の言う”恋しい”とはちょっと違う。

ただ、もっと長く生きられたらよかったねって。

好きだったよって。

それだけだ。


だって私には、こんなに甘い兄がいるので。

母にはもう会えなくたって、大丈夫なのだ。





お盆が終わり、精霊馬たちを庭に埋めた頃、健吾くんから帰ってきたとの連絡が来た。

本当に【帰ってきた】とそれだけの、そっけないにもほどがある文面だったけれど、私はいつもの甘ったれを発揮し、彼が本気で怒っているなんて考えていなかった。

今度は自虐じゃなくてね。

健吾くんは私に対して、ずるずると怒りをくすぶらせるような人じゃない。

はっきりと、そう信じることができたからだ。


ところが。



「少しは反省したか」



あれ…。

久しぶりに会った健吾くんは、明らかにまだ目が怖かった。

おや?

思っていたのと違うよ…。



「えーと、うん…ごめんね?」

「なにが?」

「あの、突っ走ったことして」



私のほうから呼び出して、仕事帰りに来てもらったカフェで、健吾くんはソファにどっかりと座り、脚を組んで両手をポケットに入れている。

すっごい態度悪い…。

全席禁煙だから我慢しているんだろうけれど、そうじゃなかったら絶対もう2、3本吸ってそうなくらい不機嫌。

これはもしや、私は相当なことをしたのか。