「それ、本気で言ってんの?」

「え…どういうこと?」

「俺ら、治樹くんから毎月のシフト表、もらってんだぜ」

「えっ!?」



兄がお隣さんに、自分のシフトを?

どうしてまた、なんて、答えはすぐにわかった。

“妹をよろしく”ってことだ。



「いつから…?」

「治樹くんが働きだした頃からだよ。知らなかったんだな、お前」



そうだったのか…。

そのシフト表を見て、私はいつ健吾くんに会いに行けるかばかり考えていたのだ。

肩を落とした私に、あきれのため息が降った。



「兄不孝者」

「心を入れ替えます…」

「まさか、健吾くんと別れる気じゃないよな?」

「ねえそのプール、もしかして私たちが使ってたの?」



ついにくしゃくしゃになったビニールの塊を見下ろして、靖人がうなずく。



「そうだよ、新しいの買ったから、こいつは今日でおしまい。直しながら使ってたけど、さすがにもう限界でさ」

「よく今までもったねえ」

「ほんとになあ」



靖人と私がこれで遊んでいる写真が残っている。

小学校に上がる前とかだから、10年以上前だ。


太陽が真上に差しかかり、庭の木からセミの声が湧きたった。

青い空には絵葉書みたいな入道雲。


「暑いな」と一緒に空を見上げながら、靖人がつぶやいた。





「こんな感じ?」

「相変わらずセンスないな」



ナスに割り箸を刺して作った、やっとこ四本足で立ってますというきわどいバランスの精霊馬を見て、兄が残念そうに言う。



「うう…」

「まあ、郁実が作った牛なら、父さんたちも文句言わずに乗ってくれるだろ」

「馬のほうはもうあきらめたから、お兄ちゃんやって」

「なんだこりゃ!」