再びずぶ濡れになったヨーを解放してやると、ヨーは靖人の指示のとおり、庭の隅っこまで駆けていって、また全身を震わせた。

周りの草花がざあっと音を立てるくらい、激しく水しぶきが散る。

私はホースリールを回して、ホースを巻き取った。



「あの、ペンダント、ありがとう、直してくれて」



靖人はヨーを入れていた子供用プールの縁を足で踏んで、水を逃がしている。



「俺も悪かったし」

「健吾くんに渡したしね」

「どんな反応するかなと思ったんだけど、想像通り、冷静だった」



私は黒いビーチサンダルを履いた靖人の足を眺めながら、「そっか」とつぶやいた。

靖人がこちらを見る。



「なんかあった?」

「え?」

「さっぱりした顔してる」

「さっき洗っていただいたんで」



持ち上げたビニールプールを頭からかぶらされそうになって、慌てて正直なところを打ち明けた。



「来し方行く末に思いを馳せていたら」

「いたら?」

「ちょっと順番が見えてきた」



それだけ? とでも言いたげに首をひねって、靖人がプールを抱えるようにして空気を抜く。

うん、それだけ。

でも、すごく大事な”それだけ”なんだ。

私にとってはね。



「まあ、なんでもいいけど。突っ走って転ぶなよ」

「大丈夫」

「今日、治樹くん夜いるだろ、久々にうちに食いに来いって母さんが言ってんだけど」

「いつも思うけど、小瀧家ってなぜかうちのお兄ちゃんのシフトに詳しいよね」



次第に小さく丸まっていくプールから、空気の抜ける間抜けな音がする。

靖人が変なものでも見るような目つきで、じろじろと私を見た。