言いながら、自分で照れくさくなってしまったみたいで、なぜか笑いだす。
恥ずかしそうに笑いながら、「え、うん」とか言いつつソファの上で体勢を少し変えて、また甘い優しい声を出して。
「だから、それまでは無理、ごめんな」
私はといえば、廊下で立ち尽くしていた。
「その後? 好きにしたらいいよ、うちに来てもいいし、俺が出てもいいし。郁実とも一緒に話さないとな」
私ってば。
いつの間にか、ひとりで生きているような気になって。
つらいことも悲しいことも、全部自分の世界の中で完結できているような気になって。
あんたほんと子供だよ、郁実。
大事なこと忘れちゃって、勝手なことばかり。
目と耳の中間あたりがツンと痛くなってきて、これ以上ここにいると泣くなと思った。
足音を忍ばせて、お風呂場に向かう。
ねえ私、考えないとね。
自己嫌悪に浸っている場合じゃないよ。
これからどうするべきなのか、考えるんだよ。
■
「お、よくなったのか」
翌々日、隣の家を訪ねると、靖人が前庭でヨーを洗っていた。
「うん、お陰様で。これ回覧板」
「サンキュ、そこ置いといて」
泡まみれの手で縁側を指す。
言われたとおり、真夏の日差しで熱された縁側に回覧板を置いたものの、即座に立ち去るのも不自然な気がして、そのあたりに漂っていたら、靖人が笑って手招きした。
「お前、わかりやすいな」
「あのー、お手伝いしましょうか」
「なんで敬語なんだよ」
海パンとTシャツ姿で、自分も水浸しになりながら、泡だらけのヨーをがしがしと洗う。
耳が垂れて毛の長いシェパードといった雰囲気のヨーは、気持ちよさそうに目を半分閉じて、舌を出している。
ヨーももとは捨て犬で、まだよちよち歩きの頃、このへんに迷い込んできたのを靖人が拾ってきたのだ。
当時は真っ黒でふわふわでぬいぐるみみたいで、一目見た獣医さんに『この子は大きくなるよ』と言われたものの、まさかここまでとは誰も思っていなかった。
恥ずかしそうに笑いながら、「え、うん」とか言いつつソファの上で体勢を少し変えて、また甘い優しい声を出して。
「だから、それまでは無理、ごめんな」
私はといえば、廊下で立ち尽くしていた。
「その後? 好きにしたらいいよ、うちに来てもいいし、俺が出てもいいし。郁実とも一緒に話さないとな」
私ってば。
いつの間にか、ひとりで生きているような気になって。
つらいことも悲しいことも、全部自分の世界の中で完結できているような気になって。
あんたほんと子供だよ、郁実。
大事なこと忘れちゃって、勝手なことばかり。
目と耳の中間あたりがツンと痛くなってきて、これ以上ここにいると泣くなと思った。
足音を忍ばせて、お風呂場に向かう。
ねえ私、考えないとね。
自己嫌悪に浸っている場合じゃないよ。
これからどうするべきなのか、考えるんだよ。
■
「お、よくなったのか」
翌々日、隣の家を訪ねると、靖人が前庭でヨーを洗っていた。
「うん、お陰様で。これ回覧板」
「サンキュ、そこ置いといて」
泡まみれの手で縁側を指す。
言われたとおり、真夏の日差しで熱された縁側に回覧板を置いたものの、即座に立ち去るのも不自然な気がして、そのあたりに漂っていたら、靖人が笑って手招きした。
「お前、わかりやすいな」
「あのー、お手伝いしましょうか」
「なんで敬語なんだよ」
海パンとTシャツ姿で、自分も水浸しになりながら、泡だらけのヨーをがしがしと洗う。
耳が垂れて毛の長いシェパードといった雰囲気のヨーは、気持ちよさそうに目を半分閉じて、舌を出している。
ヨーももとは捨て犬で、まだよちよち歩きの頃、このへんに迷い込んできたのを靖人が拾ってきたのだ。
当時は真っ黒でふわふわでぬいぐるみみたいで、一目見た獣医さんに『この子は大きくなるよ』と言われたものの、まさかここまでとは誰も思っていなかった。