「俺は、好きだって話に高校生とか持ち込むなって言ってるんだ。こういうのはまた別の話だ」

「なにそれ、大人の理屈?」

「ほんとに怒るぞ」

「私だっていい加減怒るよ! なんで美菜さんとして私としないの。それで大事にしてるつもり? こっちは満たされなくて、不安しかないよ!」

「それこそ青井は関係ないだろ」

「そう言えるのは、健吾くんだからでしょ、私の立場になって考えたことある?」



ネクタイの一方の端を引き抜いてほどくと、健吾くんがようやく、ぎくっとした表情になった。

止めようとする手を無視して身体の上に乗り、ワイシャツのボタンを外す。



「郁」

「無理なら無理でいいよ。やっぱり子供じゃダメなんだねってあきらめがつくだけだから」



ベルトに手をかけると、抵抗が本物になってきた。

手首を掴む力に、こっちも本気で対抗しないとならない。

寝込んでいたおかげで思うように動かない手で、渾身の力を振り絞って、バックルを外してスラックスのボタンとファスナーを引き裂くように開けた。



「郁!」



健吾くんが、身体をよじって抗う。

私はパジャマ代わりの大きなTシャツを脱ぎ捨てた。

下は薄いタンクトップと下着だけだ。

健吾くんがはっとし、思わずといった感じに視線を私の身体に走らせ、顔をそむける。


ねえそれ、どういう意味。

ありなの、なしなの。


ぐいとシャツをスラックスから引っ張り出すと、腰骨の上の筋肉が見える。

そのまま中のTシャツを、きれいなおなかが露出するくらいまでたくし上げ、「やめろって」という声を無視してボクサーパンツに手をかけた。



「やめろって、郁!」



突然ものすごい力で両腕を掴まれ、はっとしたところに目が合う。

健吾くんが、見たことのない表情で私を見上げていた。

息を弾ませて、なんだか必死さのにじむ、険しい目つきで。


手加減なしに掴まれている、二の腕が痛い。

私たちはしばらく、無言でにらみ合った。



「…やっぱり無理?」



自分への失望に似た、暗い気持ちで訊いたとき、健吾くんの胸元で携帯が震える。

健吾くんは、私がまたなにかしないよう、目でけん制しながら片手を離し、胸ポケットに指を入れた。