「兄貴の気持ちわかる。そりゃ、ああなるよ。俺がもっと、ちゃんとしてるべきだった」

「違うよ、私が…」



最初から兄に隠し事なんて、すべきじゃなかったのだ。

こそこそせず、正直に話していれば、反対はされたかもしれないけど、それでも健吾くんがいきなり殴られるようなことにはならずに済んだはずだ。

自分より年下の兄に、さんざん責められて、頭を下げて。

どれだけプライドが傷ついただろう。


兄も、あんなに怒るなんて、よほどショックだった証拠だ。

人を殴って平気でいられるような兄じゃない。

あの後も、私の前でこそ冷静にしていたけど、後悔とか葛藤とか、そんなものにまみれているに違いないのに。

あんなことをさせたのは、私だ。



「泣くな」

「ごめんね…」



これからどうしよう。

もう兄に隠れて会う気になんてなれない。

でも兄が健吾くんとのことを許してくれるとも思えない。


改めて考えだすと、未来が真っ暗になったような絶望に襲われて、ベッドの上で膝を抱えた。

健吾くんがベッドに移ってきて、そばに腰かけ、伏せた私の頭をなでる。



「シャワー浴びてないから、さわらないで」

「めんどくせえな、女子って」



断固として突っぱねた私を笑うと、握った手をこちらに差し出す。

なんだかわからないまま、反射的に手のひらを出したところに、さらりと金属の鎖が落ちてきた。

ペンダントだった。



「壊れたって聞いてたけど」

「あ…」

「なんでそれを靖人くんが持ってたのか、話してくれないとわかんないよ」



健吾くんの口調は優しい。

けれど私は、焦った。

靖人とのことを、健吾くんに説明するのって、ありなんだろうか。



「あの、言い争いになって、偶然指が引っかかって、切れちゃったの。靖人が壊したわけじゃなくて…」

「言い争いって?」

「ええと…」

「それ、いつの話?」

「…クラス合宿のとき」

「俺に電話くれたのより前、後?」

「…前」

「俺、なにかあったのかって、訊いたよな、あのとき」