「薄情者…」

「お前に言われたくない」

「そうだった、応援してくれてはいないんだよね」

「当たり前だろ」



はい、当たり前でした…。

これまでを振り返って、ほんと私、無神経な会話していたんだなあと反省が募る。



「別に、こじれろとも思ってないから、安心しろよ」

「無欲だね」

「そうでもない」



れんげをくわえたまま、そちらを見た。

靖人が軽く眉を上げてみせる。



「ほんとに無欲なら、そもそもお前に言ってない。知っててほしいって欲があるから言ったわけで」

「私にどうしてほしいとか、あったりする?」

「とりあえず今は、なにも期待してない」

「あ、そう…」



言いきられると、ちょっと悲しい。

最後のひとさじを食べ終えると、靖人がトレイを引き取って、入れ替わりに体温計を差し出してきた。



「でもいずれお前が、健吾くん以外の奴を探したくなったときに、俺のこと思い出させてやろうって、そのくらいは思ってるよ」



受け取った私に、にこりと微笑む。



「それってけっこう欲張りだろ」



なにも言えなくなった。

靖人は気にする様子もなく、「測ったら寝ろよ」と言い残して、トレイを持って部屋を出ていった。





──まぶたの裏の暗闇に、淡い光が映る。

机のライトがついている。

靖人が本を読んでいるんだと思い、私は覚醒しかけのぼんやりした頭で話しかけた。



「喉かわいた、靖人」



椅子のきしむ音がする。



「冷たくて甘いなにか飲みたい、とってきて」



枕に顔をこすりつけながら頼むと、くすっと笑う気配がした。



「靖人くんじゃないよ」